栄養士が知っておくべき薬の知識
第128回
栄養管理にも必要となる
慢性疼痛治療薬について

今回は「慢性疼痛治療薬」について述べます。痛みは、食欲不振など栄養管理にも大きく影響するので、その治療薬について知ることは大切です。

痛みの評価

痛みは、抜歯後や打撲など急性期の痛みと、継続して痛みのある慢性疼痛に分類されます。ここでは慢性疼痛に使われる薬について解説します。
痛みがあると不眠や食欲不振などを訴え、栄養障害を招来しかねません。痛みは、栄養管理においても重要な問題だと思います。急性期の痛みは、鎮痛剤などが比較的奏功しやすく、早期に解決可能かと思います。一方、慢性疼痛となると難治性です。痛みによって中枢神経系の機能変化や心理・社会的要因による影響などを受けるためです。心理的要因などで痛みが増幅されることもあります。これには手や足を失ってなお、手や足が痛いと感じる幻肢痛なども含まれます。痛みの原因がはっきりしないため、医療者でも痛みの判定は難しく、患者さんの訴えをよく聞いて、慢性疼痛に対応する姿勢が求められます。

2018年に痛みを扱う7つの学会が合同で『慢性疼痛治療ガイドライン』を発刊しました。7つの学会がまとまってガイドラインを出すほど、さまざまな領域で慢性疼痛が問題になっていると言えます。痛み止めだけを処方していれば済む問題ではないということです。このガイドラインで、慢性疼痛は「治療に要すると期待される時間の枠を超えて持続する痛み、あるいは進行性の非がん性疼痛に基づく痛み」と定義しています。

慢性疼痛の診断は、まず身体的原因に関する評価を行います。ま原因や結果としてうつ病や不安症などといった精神障害が疑われる場合は、精神科医による評価も行います。精神面でのコントロールがつかないと慢性疼痛治療がうまく進まないためです。またガイドラインでは、慢性疼痛治療の最終目標は「必ずしも痛みが全くなくなることを目標とはしない」としていることも知っておくべきでしょう。つまり非器質性要因が痛みの原因になっていることもあるため、完治には至らないケースもあるということです。したがって、薬物治療も副作用を最小限に抑えながら、痛みがあっても日常生活に困らずに生活できることを目標とすることもあります。

慢性疼痛の治療薬

慢性疼痛の薬物治療は、いわゆる解熱鎮痛剤をはじめとして、がん性疼痛に用いられるモルヒネなどのオピオイドや神経痛に用いられるプレガバリン(リリカ®)、抗てんかん薬、糖尿病の神経障害に用いられるデュロキセチン(サインバルタ®)など、患者さんごとの痛みの訴えに応じてさまざまな鎮痛剤が用いられます。まず使われるのが、非ステロイド性抗炎症薬(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs:NSAIDs)です。アセトアミノフェンやジクロフェナク、ロキソプロフェンなどがあります。アセトアミノフェンとそれ以外のNSAIDsは、併用して用いる場合があります。NSAIDsは1種類を使います。アセトアミノフェンは、インフルエンザの発熱時に用いられるなど、一般的に副作用が軽微なため汎用されます。1日4gまで使えます。用量依存性に肝障害が増えることに注意します。注射剤も発売されています。また坐薬や細粒剤錠剤などさまざまで、小児から高齢者まで幅広い年齢層で用いられています。NSAIDsは1日1回服用するタイブや貼付剤、軟膏剤など各種の剤型が発売されています。NSAIDsジクロフェナク(ボルタレン®)は、作用が強力ですが消化管障害も多い薬です。ロキソプロフェン(ロキソニン®)は、比較的消化管障害が少なく汎用されています。

ところでNSAIDsは、シクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素を抑えて痛みを生じるプロスタグランジンの合成を抑制します。COXには2種類あって、COX-2は炎症が起きる時に誘導されます。COX-2さえ抑えれば痛みが抑制されます。一方でCOX-1は胃粘膜を保護する作用を持っています。このため、COX-1が抑制されると潰瘍の原因になります。胃潰瘍などの既往のある患者さんにNSAIDsを長期間にわたって使用する場合は、H2拮抗剤プロトンポンプ阻害薬といった胃・十二指腸潰瘍治療薬を併用して使うこともあります。一般的なNSAIDsは両方のCOXを抑制しますが、COX-2だけを抑制するのがエトドラク(ハイペン®)、メロキシカム(モービック®)、セレコキシブ(セレコックス®錠)なとです。比較的粘膜への損傷が少なく、潰瘍をつくりにくいNSAIDsです。

オピオイド

NSAIDsで疼痛治療がうまくいかない時は、医療用麻薬であるモルヒネに代表されるオピオイド系の鎮痛薬を使います。以前はもっぱら、がん性疼痛治療に使っていましたが、現在では非がん性疼痛である慢性疼痛にも使われます。

本邦のオピオイド系鎮痛薬の使用量は少ないと言われています。つまり、疼痛による苦痛が十分に管理できていない可能性があるということです。過小治療の理由には、痛みの正確な把握がされていないことや医療者が麻薬を使うことに慣れていないこと、副作用管理が難しいことなどが原因とされます。麻薬というと依存性が生じるといった負の印象もありますが、痛みのある患者では依存性は起こりません。また呼吸抑制といった副作用は眠気やいびきに注意していれば、よほどのことがないかぎり生じません。ただし、使当初の吐き気と使用中の便秘対策は必要になります。医療用麻薬であるオピオイドを使っている時に飲酒をしたり、抗不安薬などと併用すると、薬が効きすぎて酩酊状態となったり、ふらつきや転倒のリスクが高まるため、患者指導が大切になります。麻薬には違いないため、保管方法や不要となった場合の廃棄方法などの指導も必要になります。

現在、慢性疼痛に使用できる麻薬には、モルヒネやリン酸コデイン、デュロテップ®MTパッチとしてフェンタニル、オキシコドン製剤であるオキシコンチン®などで、このほかには麻薬処方せんが不要なトラマドール(トラマール®)、トラマドールとアセトアミノフェンを含むトラムセット®、ノルスパン®テープ(成分名はブプレノルフィン)があります。それぞれの薬の効力に違いがあるため、経口薬としてモルヒネを使った時の換算表が用いられます。モルヒネの経口剤投与量が30mgだとすると、リン酸コデインでは200mgに相当します。同様にオキシコドンは20mgモルヒネ経口薬の30mgと同等です。
モルヒネ換算で50mg/日を超えて使う場合はベネフィットとリスクを再評価し、可能であれば90mgを超えないようにすることが求められています。投与期間は3カ月を目標として、最長6ヶ月使ったら一度休薬するといった管理が望ましいとされています。これは長期間の麻薬の使用によって腸の機能不全や認知機能障害、免疫機能障害、乱用・依存、鎮痛耐性、痛覚過敏といった負の面を生じる可能性が高まるためです。一方で、薬をやめる時は、退症状を起こさないように徐々に減量します。

おわりに

慢性疼痛では、薬物治療以外にも局所への注射や神経ブロックという、主に麻酔科医が扱う治療や精神科医による心理的アプローチ、整形外科医や理学療法士によるリハビリテーションなども並行して行います。慢性に疼痛を抱えている患者さんは多く、疼痛によって生活への支障が大きい状態です。このような患者さんがいるという理解が必要で、他職種と協働して、管理栄養士による適切な栄養管理も求められています。(『ヘルスケア・レストラン』2022年4月号)

林 宏行(日本大学薬学部薬物治療学研究室教授)
はやし・ひろゆき●1985年、日本大学理工学部薬学科卒業。88年、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院勤務。2002年から同院NST事務局を務める。11年4月から日本大学薬学部薬物治療学研究室教授

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