デジタルヘルスの今と可能性
第52回
2022年に注目しておきたい
デジタルヘルストレンド

デジタルヘルス」の動向を考えずに今後の地域医療は見通せない。本企画ではデジタルヘルスの今と今後の可能性を考える。今回は、2月発売予定の著書より、2022年の「デジタルヘルストレンド」について先行して紹介する。

2022年のデジタルヘルストレンド

本連載も今年で50回を超えようとしている。『クリニックばんぶう』は月刊誌のため、50回というと50カ月(4年2カ月)連載が続いてきたということ。本連載が続いているのも、ひとえに読者の先生方のおかげだと考えており、本当に感謝申し上げます。

さて、2022年が始まって、年初から講演の依頼を受けることも多くなった。そこで今回は、講演内でよく聞かれる、「22年、医業界はどのようになっていくか」というテーマで話をしていこうと思っている。

私は毎年、年初に『デジタルへルストレンド』という書籍を数量限定で出している。昨年分の『デジタルヘルストレンド2021』は、21年2月中旬に発売し、ありがたいことに数カ月で完売してしまったが、今年も2月中旬~下旬に『デジタルヘルストレンド2022』を発刊する予定だ。
本書ではその年の“デジタルへルストレンド”を7つ紹介しているのだが、本連載で特別に先行発表すると、今年のトレンドは次の7つとした。

①オンライン診療とCRM
②治療用アプリと症状記録アプリ
③医療AIは、AI問診からAI診察の時代へ
④健康経営でフェムヘルスが主役に
⑤スマートクリニックと医療機関SaaS
⑥予防・セルフケアと健康の割引 現在価値
⑦医療とSDGs

各トレンドについて、簡単に説明していこう。
まず①は、先月号の本連載でも書いたが、今年4月の22年度診療報酬改定以降、初診のオンライン診療と初診でまったく情報がない人に対する「診療前相談」が始まると、「患者さんの移動」が起こりえるのではないか考えている。
これは、新型コロナウイルス感染症による変化、オンラインや非接触などはもちろんそうだが、一番は「習慣が止まった」ことだと思っている。毎回通院することが決まっていた患者さんは、コロナ禍以前はそれで普通に通院を続けてくれていたと思うが、新型コロナを機に、通院間隔を空けたり、診療スタイルがオンラインになったりと、今までのやり方が変わってくると思われる。
会社近くで駅チカな診療所を受診していた人は、そもそもオフィスに出社しなくなっているかもしれない。そのような理由で通院先変更を検討している人に対して、オンライン診療で初診からの接触が進んでいくだろうタイミングの一つが、この4月なのだ。
CRMというのは、Customer Relationship Management(顧客管理システム)の略称で、不動産業や販売業など他業界のビジネスではよく使われている言葉だ。
初診からオンラインで患者さんとの接点を持てるようになり、患者さんに対して疾患のとき以外も接することが、オンライン診療によって可能になると思っている。

②に関しては、治療用アプリであっても、症状記録アプリであっでも、患者さんはその差がわからないといった内容だ。

今年は変化に踏み出す最後のタイミングか

③は、22年には、今までの非医療機器のAI問診や、医療機器のAI画像診断から、新医療機器の「AI診察」へと医療AIの時代が移っていくというものだ。
「AI診察」とは、医師による身体診察も含めた診察と同様のことをAIが処理として行うことを指している。とはいえ、ロボットが自ら患者さんを診察し、ロボットだけで診断するようなものまではもちろん無理だが、医師と同じように患者さんの問診を聞き、医師が行う聴診や視診から総合的にAIが診断を下す、日本ではまだ「診断支援」という枠組みが進んでいくと思われる。

④に関しては、フェムヘルス(FemHealth)と呼ばれる女性のヘルスケアが、企業の従業員の健康管理に視点を置く「健康経営」の文脈で、メンタルヘルスの次に一般的になってくるだろうという話をしている。

また、⑤は医療機関のIT化によって、▽医療従事者の業務効率化、▽患者の利便性向上、▽医療の質向上――などを行う取り組組みであるスマートクリニックが、「SaaS(Software as a Service)」と呼ばれる、必要な機能を必要な分だけサービスとして利用できるようにしたソフトウェアの形で提供が進むと考えている。
非常に簡略化した例えをするなら、月額課金制の予約システムや問診システム、電子カルテなどとイメージしてもらえると、わかりやすいだろう。

⑥では、予防やセルフケアを意識する人の割合が増えていくこと、そして、そうした人が今までよりも若い層になっていくという内容を紹介している。

最後に⑦は、医療の領域においでも、2030年に向けてSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の取り組みを、意識すると良いというような話をさせてもらっている。

以上、トレンドによっては大幅に要約したが、詳細が気になる方は2月中旬の本書の発売を楽しみにしていただければ幸いだ。

22年を私がどのように感じているかといえば、「今までの揺るがないと思われていたものも壊れることがあり、新しい価値観と入れ替わることがある」という1年だと考えている。私自身、「スクラップ&ビルド」を22年のテーマにしているが、今までの体制に胡坐をかいていると、“古い人”として消えてしまうという危機感を感じている。
変化するかどうか悩んでいるのであれば、今年が変化に踏み出す最後のタイミングだと思っている。それを念頭に、本年も良い1年にしていきましょう。(『CLINIC ばんぶう』2022年2月号)

加藤浩晃
(京都府立医科大学眼科学教室/東京医科歯科大臨床准教授/デジタルハリウッド大学大学院客員教授/千葉大学客員准教授)
かとう・ひろあき●2007年浜松医科大学卒業。眼科専門医として眼科診療に従事し、16年、厚生労働省入省。退官後は、デジタルハリウッド大学大学院客員教授を務めつつ、AI医療機器開発のアイリス株式会社取締役副社長CSOや企業の顧問、厚労省医療ベンチャー支援アドバイザー、千葉大学客員准教授、東京医科歯科大臨床准教授などを務める。著書は『医療4.0』(日経BP社)など40冊以上

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