経営トップが知っておきたい病棟マネジメントと診療報酬
第17回
身体拘束率を下げよう!
認知症ケア加算による院内連携強化

9月に入り2022年度診療報酬改定は論点整理を終え、改定に向けた議論に突入しましたが、コロナ禍はまだまだ予断を許さない状況が続いています。増患に向けた積極的な対策を行いにくい状況のなか、今回は最新公開データと共に増収対策の1つである「認知症ケア加算」について考えていきたいと思います。

認知症ケア加算は身体拘束で4割減算に

コロナ禍における現場レベルの経営改善を考えるにあたり、比較的取り組みやすく課題を見つけやすいためおすすめしたい項目の一つが、認知症ケア加算です。理由は、①入院患者の多くが高齢者であり認知症ケア加算の対象患者となり得ること、②身体拘束を行う理由のほとんどは医療者にあるため医療者側の工夫により拘束解除が可能な場合が多いこと、③身体拘束を行うことは病院経営上もマイナスになる(減算になる等)ため医療の質のみならず経営の質向上にも寄与すること――という3点です。このうち、軽視されがちな③に注目します。

認知症ケア加算の点数設計は表のとおりです。一見、点数が低いと思われがちですが、毎日算定することができる点数ですので、積み上げると経営上大きなインパクトになります。そのため、理由③にあげた減算が積み上がると、その金額は小さくありません。また、認知症ケア加算の対象患者に身体拘束を行った場合にはカンファレンスを行う必要があり、その記録も必要です。つまり、身体拘束は看護師の業務負担が増えることにもつながっているのです。

対策を取るにあたり、▽自院の認知症ケア加算対象患者における身体拘束率を把握されているか、▽目標値は設定されているか、▽その目標値は看護部のみで管理するのではなく、院内全体で共有されているか――をまず確認してください。

図1は、9月に公開データが更新されたレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDBオープンデータ)から、認知症ケア加算における身体拘束率を都道府県別に加工したものを示しています。前年である16年度データは本稿20年11月号を参考にし、その経年比較を示してみました。
19年度データも西高東低、全国平均は約3割となりました。そして、それまで身体拘束率の高さでワーストを譲らなかった青森県は19年度に2位となり、茨城県が1位となりました。また、身体拘束ゼロを掲げることで有名な金沢大学附属病院のある石川県の身体拘東率の低さは変わらずダントツ1位、さらに、19年度はその割合を下げています。

都道府県に身体拘束率の違いの根拠を求めることは極めて困難です。現場を多少なりとも経験した私としては、急性期医療における身体拘束ゼロは極めて困難だと思います。ただ、身体拘束割合が全国平均と比べて著しく高い場合には、改善できる要因が何かしらあるはずです。

図1 都道府県別経年比較 身体拘束TOP5

改善策は対象患者の選定と拘束解除に向けたカンファ

身体拘束率の改善に向けて見つかることの多い課題は「認知症ケア加算の対象者が漏れなく選定されているか」と「身体拘束解除に向けたカンファレンスを多職種で確実に行われているか」の2点です。
認知症ケア加算の対象患者は、次のように定められています。

「認知症高齢者の日常生活自立度判定基準」の活用について(06年4月3日老発第0403003号)(「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」別添6の別紙12参照)におけるランクIII以上 *ただし、重度の意識障害のある者(JCS〈Japan Coma Scale〉でII-3〈又は30〉以上又はGCS〈Glasgow Coma Scale〉で8点以下の状態にある者)を除く

身体拘束率が高い理由の一つとして、この加算対象患者の選定が正しく行われていないケースがあります。認知症ケア加算のスクリーニング対象を限定している場合は特に、対象患者が少なくなりがちです。ある病院では、スクリーニング対象を年齢で区切っていたのですが、ほとんどが高齢者であることと、高齢者でなくても認知症ケア加算の対象患者となり得る患者も少なくないことから、対象患者を拡大したことで算定対象が増え、ケアの質も向上したというケースがありました。
ほかにも、「看護必要度B項目の認知症に関係するB14、B15項目が『あり』となるのに認知症ケア加算の対象になっていない症例」が多く、スクリーニング対象が正しく選定されていないことが判明した病院もありました。認知症ケア加算の対象患者が自院の入院患者層を考えたときに、割合が低い場合にはスクリーニング対象を見直すことをおすすめします。

また、認知症ケア加算の対象患者を身体拘束した場合、解除に向けた検討を1日に1度は行うことが算定条件になっています。そのためどの病院でもこのカンファレンスは日々行われていると思いますが、忙しい業務に追われて形骸化されてしまい、解除に向けた積極的な働きかけが行われないケースも少なくないようです。
身体拘束率の下がった病院では「カンファレンスや記録の業務が増えても身体拘束を行うほうが楽だと思っていたけど、実際に身体拘束解除にシフトしたことで精神的な負担も減ったので結果として患者さんにとっても私たちにとっても良かったと思う」という声が聞かれました。「身体拘束するなよ!」という声かけではなく、身体拘束解除の実現に向けて看護師だけではなく医師や薬剤師、リハビリスタッフ等の多職種で現実的な話し合いを行うことが重要です。

認知症ケア加算1・2の医師向け研修はオンラインに

20年度診療報酬改定で認知症ケア加算に1~3の区分ができましたが、図2のとおり、上位の加算を取得できている医療機関は多くありません。とはいえ、20年度改定で加算3から加算2に上がるためには「必要な研修を終えた医師」、または「認知症ケアにおける認定看護師の過程を修了した看護師」が要件となり、うち、医師の要件のほうが比較的容易なため、医師の要件で加算2を届け出る医療機関は少しずつ増えてきています。この医師の要件となる研修が、21年度はオンラインで実施されています。

コロナ禍においてオンライン研修が広がるなか、施設基準にかかる研修も同様です。このような研修は受動的な姿勢で得られるものではなく、能動的に動く必要があります。特にコロナ禍という非常事態下では日々情報が更新されるため、日頃から情報収集を行う姿勢は大切だと思います。

認知症ケア加算のみならず、自院において今後上位を狙っていきたい加算や新規取得をめざしたい加算は共有しているでしょうか。またそれらについて、自院で誰が何を行うことが必要なのか管理されているでしょうか。
病院の収入に大きく関与する施設基準をタイムリーに獲得していくためにも、このような情報収集において要となってくる事務の皆さまとも協力体制を密に築いていきましょう。

図2 届出医療機関数

まとめ

  • 認知症ケア加算における身体拘束は点数の4割が減算される
  • 最新NDBデータにおいて認知症ケア加算の算定対象患者における身体拘束率の全国平均は約30%。自院はどうだか
  • 「加算対象患者の選定」と「拘束解除に向けた多職種カンファ」を見直し、身体拘束解除に向けて動き出そう
  • 加算2に向けて情報収集を行い、医師の研修を促そう

コラム 現場で何が起こっているの!?

ここでは今回とりあげたテーマについて実際に現場で起こっている問題を提起します(特定を避けるため、実際のケースを加工しています)。

ケース:誰が研修に行く?研修を受ける医師を決められない病院

地方都市にある200床弱の急性期病棟と回復期病棟を持つケアミックス病院のお話です。少子高齢化が進んでいる地域であること、そしてこの病院の院長先生の専門が脳神経系であることから、入院患者のほとんどが高齢者であり認知症へのケアは日常茶飯事です。しかし、医師が認知症ケアについてあまり協力的ではないと看護師側は日々嘆いていました。

今年度の経営改善点を探ろうと施設基準の届出を確認すると、認知症ケア加算は「3」。会議で加算2へのランクアップの検討を私から提案しました。すると怪訝そうな顔をした院長から「研修に出す医師がいないんですよね。それに点数もそんなに高くないし……医師に声を掛けても良い返事をもらえないと思います」とのお返事がありました。
そこで、加算3から加算2になった場合の収入シミュレーションをしました。その結果、実際の算定件数を置き換えて計算すると毎月約30万円以上、年間360万円以上の増収になることが分かりました。現状、身体拘束率は7割を超えているため、身体拘束解除に向けた取り組みを進めていけばこのシミュレーション以上の増収が望めることを報告しました。

「加算アップに向けてかかる経費は医師の研修費用のみ。以上を踏まえても加算2に向けた検討はしませんか」とお伝えすると、驚いたような表情を浮かべる院長先生以下の会議参加メンバー。現状の体制で経費を増やさずに年間360万円以上の増収とは小さな話ではありません。もともと少子高齢化に伴い急性期症例が集まらないことに悩んでおり、少しでも収入アップに向けた対策を行わなければならなかった病院の皆さまは、その後、直ちに医師を選定し、研修を受ける準備を進めたのです。(『最新医療経営PHASE3』2021年11月号)

上村久子
株式会社メディフローラ代表取締役

うえむら・ひさこ●東京医科歯科大学にて看護師・保健師免許を取得後、医療現場における人事制度の在り方に疑問を抱き、総合病院での勤務の傍ら慶應義塾大学大学院において花田光世教授のもと、人事組織論を研究。大学院在籍中に組織文化へ働きかける研修を開発。その後、医療系コンサルティング会社にて急性期病院を対象に診療内容を中心とした経営改善に従事しつつ、社内初の組織活性化研修の立ち上げを行う。2010年には心理相談員の免許を取得。2013年フリーランスとなる。大学院時代にはじめて研修を行った時から10年近く経とうとする現在でも、培った組織文化は継続している。

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