MMS Woman Lab
Vol.88
きちんと伝わっているかどうか
確認して文書で残しておこう

<今月のお悩み>医事課長を務めています。事務部から外来の診療枠再編成を提案することになり、部長の指示で資料をまとめ、部長に代わって私が会議で説明を行いました。会議の席では各部門からかなり厳しい質問・指摘を受けることに。部長がフォローしてくれるかと思いきや、事前に資料も確認してもらっていたにもかかわらず、「もっと深く考えなければならない」と責められてしまいました。以前も「聞いていない」と言われたことがあり、この上司のもとで仕事を続けていけるか不安です。

事前に説明しているはずなのに「聞いていない」と言われたら?

病院での仕事は大きく2つに分けられると思います。一つは患者さんや利用者さんに直接かかわる診療中心の業務、もう一つは病院そのものの経営管理中心の業務です。車と同じで、この両輪が同じように回ってこそ、病院は真っ直ぐに進むことができます。どちらもとても大切な仕事ですね。
そして最近では事務職員でも医療専門職でも、経営管理に関する委員会やプロジェクトに参加することが増えてきているのではないでしょうか。病院を取り巻く環境はどんどん変わっていきますから、「昨日の続きの今日」ではなく、「明日のための今日」「1年後のための今日」という意識を持って病院の経営を考える必要があります。
そのため、会議や委員会も報告会ではなく、新しい企画を検討したり、直近の課題の解決策を考えたりすることが多くなっていると思います。話し合いを円滑に、効率良く進めるためには、きちんと整理された資料が必要ですから、提案する部長の指示で、課長たちが資料の準備をするのも日常になっていることでしょう。

また、提案者が部長であっても、準備した資料の説明を課長が会議の席で代わりに行うこともあります。会議は議論する場ですから、その提案に対して質問や異論も出てきますね。ご相談のように、外来の診療枠の再編成をするという診療部門も看護部門も巻き込む大がかりな提案となると、さまざまな意見が出されたことでしょう。

多くは「こんな時はどうするのか?」「こんなケースは検討したのか?」といった、どちらかといえばネガティブな「質問」だったということですから、答えるのも大変だったと思います。本来であれば、提案者である部長が質問に答え、合意形成のためのディスカッションを進めていくものですが、フォローをしてもらえず、むしろ一緒になって「もっと深く考えないといけない」とその場で叱された、ということですからつらかったことでしょう。実際には、事前に事務部長に相談し、資料も確認してもらっていたのに聞いていなかったかのような対応をされたのでは、疑心暗鬼にもなりますね。

「相手の記憶」をあてにせず文書に残しておくことが大事

もちろん、事務部長の対応はほめられたものではありません。仮に、本当になんの相談もなく勝手な解釈で出された資料だったとしても(実際にはあり得ないことですよね……)、会議の場では他の出席者たちに自分の確認不足を詫び、そのうえで「再検討して改めて提案します」と伝えるのが事務部長の役割のはずです。
ただ、今回のようなことがしばしばあるということであれば、やはり対応策はしっかりとっておきたいですね。悪気があってしているのでなければ、忙しすぎて忘れてしまっていたり、多くの検討事項があって他の話と混乱しているのかもしれません。

まずは「聞いていなかった」と言われないように、相談の記録はしっかり文書で残して、共有をしておきましょう。さらにメールで送るだけではなく、印刷したもの直接手わたしして、「昨日の打ち合わせの内容ですが、この理解で良いでしょうか」と確認しておくことをおすすめします。そして会議のために準備した資料を事前に確認していただいて、修正があればそれを反映したものも再度確認していただきましょう。そして、会議の前には必ず再確認の時間を取ります。

「一度言った」「メールをしておいたから読んでくれているはず」「覚えているはず」と、どこかで「相手の記憶」をあてにしていることはないでしょうか。「あの話、どうなった?」「うまくいきました」というあいまいな会話をしていることはありませんか?
「阿吽の仲」という美しい言葉もありますが、その時に頭の中に浮かぶ内容が同じとは言えず、大きな勘違いのもとになってしまう可能性もあります。伝え方を工夫することと、伝わったかどうかの確認を行うことは大切です。特に、いつも忘れがちな相手の場合は、少し多めに声をかけるくらいの気持ちでいると良いでしょう。

〈石井先生の回答〉

「聞いていない」が口癖の上司は困ったものですが、その下で働くのであれば、対策をしっかりとることも大切です。報告・連絡・相談の内容は文書として残しておくのはもちろん、「こういう内容でしたよね」とその文書も確認してもらうこと、仕事を滞りなく進める手段と思って取り組みましょう。(『月刊医療経営士』2021年11月号)

石井富美(多摩大学医療・介護ソリューション研究所副所長)
いしい・ふみ●医療情報技師、医療メディエーター。民間企業でソフトウエア開発のSEとして勤務した後、社会福祉法人に入職。情報システム室などを経て経営企画室長に 就任後は新規事業の企画、人材育成などに携わった。現在は医療経営人材育成活動、企業向け医療ビジネスセミナーなどを行うとともに、関西学院大学院、多摩大学院にて「地域医療経営」の講座を担当している。著書に『2018年度同時改定からはじまる医療・介護制度改革へ向けた病院経営戦略』『経営企画部門のマネジメント』(ともに日本医療企画)ほか

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