食べることの希望をつなごう
第44回
病棟に管理栄養士がいるということ

管理栄養士が病棟に出ていくようになり、以前と比べ栄養管理を通して治療に貢献する場面が増えているのではないでしょうか。そこに行けば管理栄養士に会える”という環境はどのようなメリットを生むのか。実際の事例をもとに紹介します。

そこに行けば会えるという気軽さ

病棟常駐の私は、病棟にある「病棟管理室」という部屋に机があるため、基本的に業務開始から終了まで病棟で仕事をしています。外来から何かしらの依頼がなければ、ほぼずっと病棟にいる状況です。病棟管理室のドアは開放しているので、廊下を歩いている患者さんやスタッフから室内が丸見えですが、メリットもあると感じています。
まず、看護師や歯科医師などのスタッフは、ここに来れば管理栄養士がいると認識してくれているので、電話ではなく直接相談に来てくれます。わざわざ電話をかけるのと、行けばそこに管理栄養士がいるのとでは、気軽さが違うのだそうです。ですので、食事に関することはちょっとしたことでも相談があります。対応に困る場合は正直にそのようにお伝えしますが、情報がないよりもあったほうがありがたいと思っています。

患者さんが入院すると、看護師が病棟を一緒に1周して、どこに何があるのかという説明や、避難経路の案内をします。病棟管理室の前を通りがかった際に私がいれば、「ここに管理栄養士がいます」と紹介してくれます。ついでに禁止食品や食形態の調整が必要であれば、そこで面談すれば食事のボリュームなども合わせて確認することができ、細かな対応が可能になります。

担当医は、食形態の相談に来ることが多く、「こういう手術をしていて、今はこういう状態だから、このくらいの硬さまでだったら食上げしても大丈夫だけど……」というような内容が多いです。その場合は患者さんと相談して、これだったら食べられそうというご本人の感覚と、構音の状態や唾液が飲めているか、痛みはないかなどを確認し、適切と考えられる食形態を担当医に報告します。
基本的に食事変更は平日の昼食時に行います。変更した食事を実際に食べられるかの確認ができ、必要であれば夕食からの食事調整が可能になるからです。

病棟常駐で構築される患者との関係性

患者さん自身が訪ねてくることもよくあります。術後の放射線治療をしていたAさんは、入院期間が3ヵ月と長期にわたっており、新型コロナウイルス感染症の感染予防対策から面会ができないなか、ようやく治療の終わりが見えてきました。励まし合いながら治療を続けてきた周りの患者さんも続々と退院され、寂しさもあったのでしょう、毎日食事摂取量を報告してくれるようになりました。

Aさんは口内炎がかなりひどく、出血も見られていたのですが、「鼻のチューブは嫌だ、入れたら脱走する」とおっしゃり、「頑張って食べる」の一点張り。体重減少も明らかでしたが、「これは酸っぱくてだめだった」「これはこうやって食べると食べやすかった」と逐一報告にいらっしゃり、食べているよとアピールしていました。昼食時に覗きに行くと、飲み込みづらさが強いようで、かなりの量を喀出してゴミ箱に出していました。また、「こうやって分けると食べやすいんだよ」と、自作の「ざる」のようなものでゼリードリンクを濾しておられ、液体部分とゼリー部分を分けていらっしゃいます。離水しているところが飲みにくいから分けているのかな?と思いきや、ゼリー部分は捨てて液体部分のみ飲み始めたのでびっくり。少しでも形のあるものは口内炎が痛むようで食べられず、喀出したりこぼしたりしたことを考えると、実際の食事摂取状況は2割程度にとどまっていました。いくら脱走すると言われても、経口摂取以外の栄養ルートを考えないといけない時期になっているのは明確で、スタッフ皆で少しずつ経鼻胃管からの経腸栄養について説明を始めました。

ある日出勤すると、Aさんの部屋を担当する看護師さんが「Aさんが豊島さんは何時に出勤するのか待っているから、お部屋に行ってもらえる?」と言います。すぐにお部屋にうかがうと「これ(経鼻胃管)しようと思う」と決意をお話ししてくださいました。胃管が入ってからも「これ(経鼻胃管)早くやっておけばよかったなー」と報告があったり、「もう(口内炎は)大丈夫だから、5分粥を食べてみたいな」と希望を伝えに来てくださったりしました。

次に、手術を終えて経口摂取が開始になったBさんのケースです。Bさんは問題なく全量摂取できており、術後の経過も良好です。毎日病棟をウォーキングされており、何回も病棟管理室の前を通り過ぎて行く姿を見かけていました。学会分類2013コード2-1相当の嚥下調整食の経口摂取を開始してから3日が経ち、主治医から「食上げしても大丈夫なんだけど、ご本人が怖がっているんだよね」との連絡がありました。
食形態の変更についてご本人のもとへ相談にうかがおうと思っていたら、Bさんのほうから訪ねてきてくださいました。もともとかなり運動をされており、「筋力低下を防ぎたい」「今後追加治療があると聞いているから、それまでに体力をつけておきたい」との相談でした。食べられるものが多いほうが、今後の治療の経過によって出てくるかもしれない食欲低下や、摂食嚥下機能低下などの副作用に対応がしやすいことを説明し、食形態を変更してみることにしました。さらに、食事量を増やすか、補食をするかで、栄養量のアップを図りましょうとお話したところ、ご自身も乗り気で、歩数とエネルギー消費量、食事摂取量と体重を自分で記録しておくから見てほしい、とおっしゃいました。Bさんはパソコンでデータ管理をされており、基本的に1週間に1回一緒にチェックしましょう、ということになりました。開始3日後から体重が微増し始め、笑顔で報告に来てくださいました。

相談のしやすさは安心感にもつながる

身近に管理栄養士がいる、というのは、ちょっとしたことでも相談がしやすく、患者さんだけでなくスタッフの安心感にもつながるようです。「電話でもいいですよ~」と言うこともあるのですが、「わざわざ電話をかけるのではなくて、いつでもここに来れば相談できるというのがいい」と言ってくれるスタッフが多いです。
仕事場である院内でも、身近なほうが相談しやすいというのは大いにわかるので、それこそ地域でも、わざわざ行くのではなく生活の場に食事や栄養について相談できる場があるということは安心感につながるのではないかと思います。「管理栄養士ってどこにいるの?」とよく聞かれますが、「ここだよ!」と言える場所が、職場でも、地域でも、足を運びやすく入りやすいところにあれば、食事に関する困りごとを少しでも解決できるのではないかと思いました。(『ヘルスケア・レストラン』2021年11月号)

豊島瑞枝(東京医科歯科大学歯学部附属病院 管理栄養士)
とよしま・みずえ●大妻女子大学卒業。東京医科歯科大学医学部附属病院に入職後、2010年より東京医科歯科大学歯学部附属病院勤務となる。摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士、NST専門療法士、TNT-D管理栄養士、糖尿病療養指導士

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