お世話するココロ
第133回
料理嫌いの気持ちと工夫

さまざまな事情で、これまで料理をしていなかった人が、しなければならなくなる時。さて、どのような支援が有効でしょうか。料理が苦手な私を例にお話しします。

外食中心だった22年間

私は1987年に看護学校を卒業後、22年間総合病院で看護師として働いていました。
90年に結婚して以降も、仕事中心の生活。子どものいない夫婦2人の食生活は、いきおい外食が多くなったのです。
当時はフルタイムかつ、長時間労働の職場だったため、日勤の退勤時間は常に19時過ぎ。夫と帰宅途中の駅で待ち合わせ、いくつかある行きつけのラーメン屋で晩ごはんを済ませるのが日常でした。記録を見ると、平日2日程度はラーメンを食べています。

この生活が大きく変わったのは、2009年3月末で勤務先の病院を辞め、精神科病院でパートをを始めてからです。今は亡き母親の世話や大学院での研究もありましたが、以前の長時間労働に比べれば、はるかに余裕がありました。
ちょうどこの時期、夫が高血圧を指摘され、ラーメン中心の生活はやめようと決断。以来、自宅で料理をつくるのが日常になったのです。

看護師として、以前の食生活を考えると、本当に恥ずかしくなります。糖尿病や高血圧などの慢性病の人に対し、生活指導をしてきました。患者さんのなかには自炊が難しい人も少なくありません。その場合には、「栄養のバランスを考えるなら、丼ものや麺ではなく、定食にしましょう」と、外食に際しての注意も話したものです。
なのに、私自身はというと外食といえばラーメンや丼もの。今より若かったとはいえ、20代も40代も変わらぬ食生活だったのですから。夫の高血圧の誘因になったと思うと、残念ですが、後悔先に立たずと諦めるしかありません。

「料理は好きじゃない」と宣言

母の最期を見送り、大学院を修了以降も、週に3回看護師として働く生活を続けています。空いた時間は研修の講師をしたり、家で原稿を書いたり。夫は遠距離通勤なので帰宅は遅く、主に料理をつくるのは私の仕事になりました。
これはともにフルタイムで働き、家事を平等に分担する私たち夫婦にとって、非常に大きな変化だったといえます。私だけに家事のバランスが偏らないよう、夫婦で話し合い、食後の洗い物は一緒にする、掃除は夫が多く引き受けるなどの取り決めをしました。
しかし、このように意識して分担をしても、料理は私にとって大きな負担でした。料理というのは、調理そのものだけではありません。メニューを考え、食材を買う。トータルで見ると、頭も身体も時間も使う大仕事なのです。
実際、家に帰ると夕飯づくりが待っている同僚たちは、午後になると「あなたの家は今日何つくる?」と互いによく尋ね合っていました。そう、料理のなかでも、一番の山はメニューの決定。これが決まれば、山も五合目まで越えたという感じです。

ほどなく毎日メニューを考えるのに疲れた私は、その日の夕食が終わると、「明日は何がいい?」と夫に尋ねるようになりました。しかし、返事はたいてい、「何でもいいよ」。そう言われれば、こちらで考えて提案するしかありません。
しかし、仕事が立て込み、余裕がなかったある時、「何でもいいよ」と言った夫に対し、「私に丸投げするな!あなたも考えなさい」と爆発してしまったのです。
その時、私ははっきり自覚しました。私は決して料理好きではないということを。そしてそれは私にとって、不思議なくらい、やましいことだったのです。

私の育った家庭は母が料理をしない家で、女らしさを押しつけない教育をされてきました。それでも、知らず知らずの間に、“料理は女性の仕事”と刷り込まれていたのでしょう。
「私も料理は好きじゃない。やるのは必要だから。なるべく時間も労力もかけたくない」。夫にはっきりそう告げた時の解放感は、忘れられません。

料理嫌いの料理術

これ以降私たち夫婦は、なるべく負担を少なく家で料理をするにはどうしたらいいか。工夫を重ねてきました。次にポイントを列挙し、説明します。

①曜日ごとの基本メニューを決める

何を食べるかを決めるのが一番の山なのであれば、それが自動的に決まればとても楽になります。わが家では試行錯誤の末、火曜日から木曜日までは、曜日ごとの基本メニューで固定しました。
火曜日=焼きそばと茶碗蒸し。水曜日=チルドピザ。木曜日=餃子とそうめん。「なぜその組み合わせ?」と疑問をもつ方もいると思いますが、たまたま食べ合わせておいしいと思ったものが、なんとなく固定されたのでした。
手のかかるメニューもあります。たとえば茶碗蒸しと餃子。家でつくらず出来合いのものを買う家庭も少なくないようです。
それでも、最初からメニューが決まっていると、朝のうちから準備ができ、意外に楽。たとえば茶碗蒸しはだしをとっておく。そうめんのつゆもつくって冷やしておけるので、勤務の日も帰宅してからの作業がうんと楽になります。

②つくり置きおかずをつくっておく

空いた時間を使ってつくり置きのおかずをつくっておくと、毎日の料理の手間が一気に省けます。マンネリが気になる人には向かない方法でしょうが、うちのように同じものを食べても気にならないなら、バリエーションはそこそこでかまいません。
うちがよくつくるのは、鶏手羽元の煮込み、きゅうりとにんじんのソムタム、ラタトゥイユ、オイルサーデンときゅうりのサラダ、味玉、もやしのごま和え、ほうれん草のお浸し、高野豆腐の含め煮、かぼちゃの煮付け、煮なすなど。
冷蔵庫に入れると1週間程度はもち、なかには時間が経つほうがおいしいものもあります。組み合わせを変えて多少バリエーションを出すようにしますが、どれも意外に飽きない味。多少季節による違いはありますが、多くがヘビーローテーションの料理です。

③夫婦それぞれで得意な料理をつくる

コロナ禍での在宅ワークは、これまでは社食でとっていた昼ご飯を家で食べるという変化をもたらしました。これまでにも夫は料理をしなかったわけではありません。ホームベーカリーでパンを焼く、圧力鍋で米を炊く、といった仕事は彼の役割だったのです。
今はこれに加えて、先ほどのつくり置きのおかずのうち、鶏手羽元の煮込み、高野豆腐の含め煮、かぼちゃの煮付けは、彼がつくるようになりました。2人でつくると、つくり置きおかずも種類が増え私の負担はさらに減りました。

④よくつくる料理はレシピカードをつくる

料理が得意でない私たちは、目分量が苦手。すべてきちんと計量してつくっています。そのため、料理をつくる際は、料理本と首っ引き。細かい字を追うのも大変なので、はがき大のカードに分量や調理の手順を書いた、レシピカードをつくっています。
ちなみにこのレシピカード、濡れてもいいようにラミネート加工してあるので、水がかかっても汚れても、問題ありません。料理本だと汚さないように気を遣うのも大変でした。つくる手間はありますが、一度つくってしまえば楽ちん。ぜひお薦めしたい方法です。

以上、管理栄養士の皆さんにはわからないかもしれない、料理嫌いの気持ち。ご指導の参考にしていただければ幸いです。(『ヘルスケア・レストラン』2021年10月号)

宮子あずさ(看護師・随筆家)
みやこ・あずさ●1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業後、2009年3月まで看護師としてさまざまな診療科に勤務。13年、東京女子医科大学大学院博士後期課程修了。博士(看護学)。現在は精神科病院の訪問看護室に勤務(非常勤)。長年、医療系雑誌などに小説やエッセイを執筆。講演活動も行う。看護師が楽しみながら仕事を続けていける環境づくりに取り組んでいる。近著に「宮子式シンプル思考 主任看護師の役割・判断・行動力」(日総研出版)がある

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