栄養指導で”あるある!こんなこと”
第97回
“低カロリー”の落とし穴にご用心
糖質との上手なお付き合いで成果を出す
Mさんは甘い物が大好きで、習慣的に食べてしまい、体重と血糖が上昇してしまいました。改善するため、おやつの選び方を工夫されたのですが、意外な落とし穴があったのです。
コロナ禍で増えた体重原因は運動不足だけ?
Mさんは身長153cm、体重60kgとぽっちゃり体型で、もともと糖尿病で通院していました。コロナ禍で外出する機会が減り、この1年で体重が4kgほど増えてしまいました。
そこで主治医から栄養指導の依頼が入りました。栄養指導初回の血糖値は136g/dl、HbA1cは7.8%でした。もともとは血糖値110g/dl、HbA1c7%前半だったようなので、体重の増加とともに上昇したようです。
田村:Mさん、こんにちは。はじめましてって言っても、Mさんはクリニック通いが長いんですね
Mさん:よろしくお願いします。そうね、もう10年以上かしら
田村:そうなんですね。ところで、Mさんは新型コロナウイルスのワクチン接種は終えましたか?
Mさん:接種券にこのクリニックの名前もあったから、すぐに予約して、来週2回目を接種します
田村:そうですか~。主治医からのコメントで「外出が減った」って書いてありました。ワクチン接種を終えたとしても、100%安全というわけではありませんが……今度からは少しは安心して外出できますかね?
Mさん:いや~。ワクチン接種、早くやってもらえて本当にありがたいです。運動がてら毎日歩いて行っていた買い物も、怖くて今は週1回。それも車に乗せてもらって行くようになって……。おかげで4kg太っちゃって。先生にも「ダメだぞ!」って言われちゃいました
田村:そうみたいですね。でも感染も心配だったし、仕方ないですよ
Mさん:血糖値もやっぱり少し高くなってきちゃって、管理栄養士さんとお話しするようにって
田村:そうですね。少し食事内容などをお聞きして、もし何か改善点があればやってみましょう
Mさん:はい、よろしくお願いします
田村:それでは初回なので、食事についていろいろ教えてくださいね
Mさん:はい
食習慣の聞き取りでは午後に問食があり、お菓子や菓子パンなどを食べることが多いということがわかりました。アルコールや外食はそう多くはないようです。また、新型コロナウイルスが感染拡大する前は運動を兼ねて家から1km弱のスーパーまで往復しており、ほぼ毎日買い物に行っていたようです。またそこで友人とよく会うため、休憩しながらおしゃべりをして帰って来るのが日課だったようです。
田村:Mさん、午後の間食なんですが……
Mさん:なかなか止められなくて
田村:止めなくてもいいんですが、菓子パンや甘いお菓子をチーズとかお煎餅とか、あまり甘くない物に替えられそうですか?
Mさん:頑張ってみます
田村:あと散歩ですが、家の周りを10分とか20分とか歩いてみるのはいかがでしょうか?ただ、暑くなってきているので水分補給はこまめにお願いしますね
Mさん:先生にも少し体重を落とすようにと言われているし、運動も頑張ってみます。
田村:無理のない範囲でいいですからね
Mさん:わかりました
おやつ選びでの注意点はカロリーよりも糖質
それから3ヵ月、Mさんの体重は1.5kgほど減りました。血糖値は120台、HbA1cは7.8→7.6%と改善傾向ですが、思ったほどは下がらず……。
田村:こんにちは、Mさん。体重は減ってきましたね。頑張ってますね
Mさん:でも血糖値が……
田村:数字の変化が表れるまで少し時間差があるので、様子を見ていいと思います。最近、甘い物はいかがですか?
Mさん:菓子パンは食べませんが、やっぱり甘い物が食べたくて
田村:もちろん、完全に止めなくても大丈夫ですよ。菓子パンを止めてくださっただけでも頑張っています。それ以外はいかがですか?
Mさん:娘がコレならどうって、低カロリーのゼリーやヨーグルトを買ってきてくれて。確かに、低カロリーだし運動も再開したし、これくらいならいいかなって。何だかおいしくて午前にヨーグルト、午後に低カロリーのゼリーを食べちゃって……それってどうなんでしょうかね?
田村:なるほど。それは低カロリーって書いてあるんですか?
Mさん:娘がそう言ってました
田村:Mさん、実はカロリーと血糖に影響する糖分、同じように見えて実はちょっと違うんです
Mさん:えっ!?低カロリーじゃダメなんですか?
田村:ダメなわけではなくて、血糖を上げやすいのは糖分なんです。なので、娘さんに伝えてほしいんですが、で「きれば「糖質」とか「炭水化物」っていうところを見ていただいて、少しでも数値の低いものを選んでほしいんです
Mさん:そうなんですね
田村:はい。たとえば、最近ですと「低糖質」なんていうのがありますよね
Mさん:ありますね。そっか、低力ロリーなら甘くても大丈夫なのかと思ってました
田村:最初にお話ししたように、甘い物には糖分が含まれてます。3日ぐらい我慢してみると意外と甘い物を忘れられるんです。毎日なんとなく食べていると習慣になってしまうので、ちょっと我慢して3日、食べないでみてください。もちろん、たまの楽しみに食べるのは問題ないですからね
Mさん:確かに甘い物を食べない日がないですね
田村:なんていうか、口が甘い物を覚えているので止められず、ついつい毎日食べちゃうんですよね。私もアイスなんて食べると「あ~、また食べたい!」って癖になるので、よくわかります
Mさん:ちょっとやってみます!
田村:お願いします
この3ヵ月後、Mさんの体重はさらに1.5kg減って57kgになりました。そしてHbA1cは7・6→7.1%まで改善しました。
Mさん:田村さんに3日我慢してみて、って言われて我慢した2日目はつらかったんですが、3日目から本当に家におまんじゅうがあってもあまり食べようって気にならなくなって……傷むから冷凍しちゃいました。今では1週間に1回だけお茶を飲みながら甘いお菓子をちょっと食べるのが楽しみになりました。それ以外は田村さんに言われたチーズとかナッツとかで小腹対策をしています
田村:いや~。頑張ってくださっていますね、素晴らしいです!
甘いお菓子は誰が食べてもおいしいですし、やっぱり食べたくなります。しかし、食べる間隔を少し空けるだけで、食べる癖から抜け出せるかもしれません。このMさんのように大好きな甘いお菓子を止めずに上手に楽しみながら食べてもらい、血糖を改善に導いていけるようにしていきましょう。(『ヘルスケア・レストラン』2021年8月号)
福島学院大学短期大学部
食物栄養学科講師
かとう内科クリニック 非常勤 管理栄養士
たむら・かなみ●療養病院、急性期病院での勤務を経て、2011年8月からフリーランスの管理栄養士として活躍中。福島県いわき市内のクリニックでの栄養指導や全国各地での講演活動、自宅で暮らす高齢者の栄養サポートにも力を入れている