デジタルヘルスの今と可能性
第41回
話題の「オンライン資格確認」
本格稼働先送りも進行中
「デジタルヘルス」の動向を考えずに今後の地域医療は見通せない。本企画ではデジタルヘルスの今と今後の可能性を考える。今回は、昨今話題の「オンライン資格確認」について解説していく。
「オンライン資格確認」本格稼働は10月まで延期
今回は、「オンライン資格確認」に関して話をしていこうと思う。本連載の読者には今さらであるかもしれないが、「オンライン資格確認」とは、マイナンバーカードのICチップや健康保険証の記号番号などを使って、オンラインで保険資格の確認ができるようになることである。
2021年のデジタルヘルスにおける重要トピックスを3つ挙げるとすれば、誰しもが必ずこれを入れるだろうと、私は考えており、日本のPHR(Personal Health Record)の基盤につながっていく政策だ。実際にマイナンバーカードと健康保険証の連携により、今年3月から特定検診(40~74歳が毎年行う健康診断)での情報が、マイナンバーカードに紐づくオンラインサービス「マイナポータル」で確認できるようになった(※利用可能な医療機関・薬局は厚生労働省HPを参照)。
ただ、現状「マイナポータル」を逐次見に行く人もまだまだ多くないと思われるため、実際には、API連携された民間PHRサービスで自分の健康情報を確認すると想定される。そして今年10月には病院での処方内容も「マイナポータル」から連携した民間PHRサービスで確認できるようになるとされている。
というのが、以前までの「オンライン資格確認」の進捗スケジュールだったのだが、今年3月末にこの工程が一変することになった。ご存じのとおり、3月26日の社会保障審議会・医療保険部会で、3月開始予定だった「オンライン資格確認」システムの本格運用が、10月まで先送りすると、厚労省から報告されたのだ。理由としては、システムの安全性やデータの正確性の担保が挙げられており、個人番号の誤入力チェック機能の導入に3カ月かかるとされている。
自分としては、3月から「オンライン資格確認」がスタートすることで、いよいよ医療現場のデータ化が一気に進められると思っていた。本格稼働した後の病院、診療所、薬局などの間では、医療情報連携が今よりスムーズになるとされている。医師に役立つことでは、まずは特定健診の情報や薬剤情報が閲覧できるようになる。予定されている今年10月時点では、薬剤情報もレセプトから抽出するためリアルタイムではないが、22年夏には電子処方箋の実現が予定されており、そうすれば、リアルタイムの情報閲覧も見えてくる。
そのほか、手術歴や移植、透析、それぞれの実施医療機関など、閲覧可能な情報も増えていくだろう。
3月4日からプレ運用が開始され、参加数は3月22日時点で54施設だ。プレ運用では全体で約500施設の参加を目指しており、準備ができた施設から順次開始していくという。
出典:第142回社会保障審議会医療保険部会資料
デジタル庁の発足も今後の進捗に影響する?
本格稼働が先延ばしとなったこのシステムだが、直近で問題視されているのが、マイナンバーカードを読み取るための顔認証付きカードリーダーの導入状況だ。3月21日時点の申し込み数は、全施設合計10.3万機関と全体の44.9%だ。そのうち病院は約5000軒(病院全体の60.4%)、薬局は約4万軒(薬局全体の66.5%)であり、対して診療所ではまだあまり導入が進んでいないことがわかる。
このようなデジタル化に関連して、4月6日には「デジタル改革関連5法案」が衆議院本会議で可決されている。これは、▽デジタル社会形成基本法案、▽デジタル庁設置法案、▽デジタル社会形成関連整備法案――などのことだが、なかでも具体的に一番の変化と考えているのが、「デジタル庁の設置」である。トップに首相を据え、デジタル化に関しての強い権限を持つデジタル庁が、9月1日に発足予定だ。
衆議院本会議で可決されたため、現在同法案は参議院に送られており、参議院でも可決されれば成立となる。デジタル庁は「デジタル社会の形成のための施策に関する基本的な方針に関する企画及び立案並びに総合調整」などを担うとされ、デジタル関連に関しては横断的に各省庁の権限を上回っていくのではないかとも言われている。「オンライン資格確認」に関しても、9月以降は厚労省だけでなくデジタル庁の存在によっても大きく変わってくるのではないかと考えている。
「オンライン資格確認」は、22年3月には全医療機関での利用を目標としている。タイミング的に、22年度診療報酬改定ともかかわってくるかもしれない。(『CLINIC ばんぶう』2021年5月号)
(京都府立医科大学眼科学教室/東京医科歯科大臨床准教授/デジタルハリウッド大学大学院客員教授/千葉大学客員准教授)
かとう・ひろあき●2007年浜松医科大学卒業。眼科専門医として眼科診療に従事し、16年、厚生労働省入省。退官後は、デジタルハリウッド大学大学院客員教授を務めつつ、AI医療機器開発のアイリス株式会社取締役副社長CSOや企業の顧問、厚労省医療ベンチャー支援アドバイザー、千葉大学客員准教授、東京医科歯科大臨床准教授などを務める。著書は『医療4.0』(日経BP社)など40冊以上