介護業界深読み・裏読み
改良ありきのLIFE、活かせるかどうかは介護現場次第

介護業界に精通するジャーナリストが、日々のニュースの裏側を斬る!

「科学的介護が進めば、サービスを受ける方にとっても、国にとっても、サービスを提供する側にとってもプラスになることは間違いない」「しかし一方で、人手不足に悩む介護事業者にとっては、データの入力や国に提出する作業の手間、若干の報酬を加算されたとしてもできっこないという声があるのも事実」「このシステムの狙い、効果を明確に示す必要がある」。3月15日に開かれた参議院予算委員会で、大家敏志参議院議員が行った質問は、実に痛快なものだった。
というのも、2021年度介護報酬改定の中核として掲げられた「科学的介護情報システム(LIFE)」については、スタートまで残すところ半月を切ってもなお、具体像どころか影すらうかがえない状況が続いており、現場からの不安や戸惑い、苛立ちの声が絶えなかったからだ。

都内で特別養護老人ホームを運営する介護事業者は、「役所のソフト開発能力には、いつも疑問を感じている。COCOAにしてもマイナンバーにしても、かたちだけ整えてスタートした結果、いつも同じようなトラブルが起きる。開発段階からのアプローチがまずおかしいのではないか」と憤りを隠さない。4月からのスタートとなるこのLIFEについても、とにかく場当たり的な印象が拭えず、あるシステム開発関係者が「3月に入ってもまだベンダーのテストさえ終わっていないと聞いている」というように、走りながら修正していく前提のようにしか見えない進捗で、年度変わりと同時に対応を求められる介護事業者が憤るのも無理からぬ話だ。

LIFEについて厚生労働省は、2月14日に「『科学的介護情報システム(LIFE)』の活用について」を発出、利用申請や操作マニュアルについて示した後、3月16日になってようやく「科学的介護情報システム(LIFE)関連加算に関する基本的考え方並びに事務処理手順例及び様式例の「提示について」を公表した。ここではLIFEへ情報提供すべきタイミングや頻度などが明らかにされている。当初、多くの関係者が(2月19日の「活用について」の内容などから)毎月1回のデータ提出と認識していたが、たとえば科学的介護推進体制加算では最初の加算算定時からは「少なくとも6カ月ごと」の提出が求められることが示されている。同時に2021年度においては、「LIFEに対応した介護記録システム等を導入するために時間を要する等の事情のある事業所・施設」については一定の経過措置を設けるとし、今年4月から同年9月末日までに同加算の算定を開始する場合は、算定を開始しようとする月の5月後の月までにデータ提出すること等で算定を認める猶予期間が設けられることとなった。
厚労省関係者によれば「特に中小のベンダーは4月中のLIFE対応が難しいのではないか」との懸念もある。2021年度はシステムとしても、事業者側としても導入期間に充てるという現実的な対処をしたものと見るべきだろう。

前述の大家参議員の質問に答えて田村憲久厚生労働大臣は、ガイドライン策定や「LIFEマスター」によるアドバイスを通じてLIFEの有効活用をめざすとしたうえで、「まだまだ改良していかなければならない。有識者の意見、介護現場の声をしっかりと聴かせていただいて、より良いものにしていきたい」「より質の高い介護、そして世界に向けて日本が発信できる分野として介護を確立できるように頑張ってまいりたい」と述べている。少なくとも確実なこととして、介護分野において非常に大きく、新しい価値観としてLIFEが運用されていくことは翻らない。大家参議員は田村大臣の答弁に対し、「LIFEの仕組みに魂を入れる。そして厳しいと言われる介護現場に夢をもってもらえる仕組みなんだという発信、仕組みづくりを徹底していただきたい」と要望した。たとえ場当たり的であっても、LIFEが今後改良を重ねながら前進していくのだとすれば、介護現場の協力によってその仕組みを活きたものにしていかない手はない。介護現場と厚労省が一丸となり、LIFEを通じて幾多のデータを集約することで、さらなる高品質介護サービスの実現、そして我が国の介護のめざすべき未来像が示されることを、強く願ってやまない。(『地域介護経営 介護ビジョン』2021年5月号)

あきのたかお(ジャーナリスト)
あきの・たかお●介護業界に長年従事。フリーランスのジャーナリストとして独立後は、ニュースの表面から見えてこない業界動向を、事情通ならではの視点でわかりやすく解説。

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