Dr.相澤の医事放談
第14回
緊急事態宣言と積極的疫学調査で
感染者増加の速度を遅らせるべき

緊急事態宣言が3月21日に解除される一方で、その後、感染者数はじりじりと増えはじめ、地域によっては「第4波到来」の声も聞かれる。こうしたなか、感染拡大を防ぐ手立てはどのようなものが考えられるのか。相澤孝夫先生は「積極的疫学調査」の必要性を訴える。

あるべき順序は「感染抑止」続いて「医療体制」の整備

――3月21日で東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県で出ていた「緊急事態宣言」が解除されました。引き続き、営業時間短縮などは要請していますが、人出は増えているようです。

感染症の拡大を抑え込む方策として、飲食店への営業時間短縮要請と並んで、緊急事態宣言は一定の効果があったと思います。というのは、「宣言」が出たことで、無言の抑止力が働いたと考えるからです。宣言が解除されたことで心の歯止めのようなものがなくなってしまうという懸念があります。
そもそも、感染拡大を抑え込むという前提があってはじめて他の施策が成り立つのです。感染拡大に対して何の手も打たないまま医療提供体制を整備するというのには違和感を覚えます。

患者さんが来ればもちろん診療はしますが、「何とかならないのか」という思いは現場の誰もが持っているでしょう。医療機関は新型コロナの患者さんだけを診ているわけではなく、通常の医療も継続させなければいけません。なかには脳卒中や心筋梗塞など緊急対応を必要とする患者さんもいますし、そのための医師や看護師医療設備などを用意しておく必要があるのです。

医療機関や医療従事者を急増させることができるなら、感染症患者がいくら増えても引き受けられるかもしれませんが、それは不可能です。限りある医療資源で対応していくなら、感染拡大を抑え込むしかありません。変異株は感染力が強いと言われるし、ゼロにはできないでしょう。それでも手立てを尽くし「重症化する患者さんが出ると思いますが、そのときは医療機関で対応してください」となるならともかく「抑え込む策は何もないし、患者さんは急に増えるかもしれませんけれど、よろしく」となったら、さすがに戸惑います。

新型コロナが流行してまもなく1年ですが、この間の経験を活かすべきです。昨年3月あたりに第1波が起きましたが、安倍晋三前首相が緊急事態宣言を出すことで収束しました。解除すると第2波が起き、それが収まらないうちに「GO TOキャンペーン」を推進したところ、最も大きなうねりの第3波に。そして現在、徐々に感染者数が増え、既視感を否めません。

積極的疫学調査で感染リスク要因を除去

――今後、どのような対策を講じるべきと考えますか。

緊急事態宣言に加えて、積極的疫学調査を実施すべきです。本来ならば無条件で全員を対象にすべきですが、それが難しいなら、感染者が増えている地域や施設に絞ってでも実施していただきたい。それによって実行再生産指数を減少させる、つまり、感染者数をゼロにするのは難しいにしても、確実に実行再生産指数は下がるし、感染者の増加速度は遅くなるはず。そうなれば、重症化して入院する患者も少しずつ入院することになります。これなら医療機関は対応できます。逆に、一度に急激に患者さんが増えてしまうと、マンパワーも設備も限りがあるので受けきれなくなる。増加速度を遅らせるのはものすごく大事なことなのです。

私の経営する相澤病院でも、これに近い調査を実施しました。入院患者さんのなかから退院後に発症した人が出たのです。そこで、相部屋だった患者さん2人にPCR検査を実施したところ、全員、担当スタッフ2人も含めて陽性と判定が出ました。これを受けてその日のうちに病棟に入院する患者さん全員と病棟スタッフ全員、さらに病棟に出入りしている他のスタッフにもPCR検査を実施しました。無症状ばかりでしたが、陽性判定が出る人もいたので宿泊療養してもらいました。1週間後に再度、PCR検査を実施しました。そこで陽性の判定が出れば、その人は同じように宿泊療養してもらう。このように、陽性判定が出た人を感染のサイクルから外していくことで感染リスクはぐっと減るのです。

同じことを地域でも実施してはどうかというのが、私の意見です。東京都なら、都民全員は難しいとしても、特に感染者の増加が目立つ区に絞って検査する。あるいは、飲食店やカラオケ店に行った人は、濃厚接触者に限らず全員に検査を受けていただく。感染した際の重症者リスクの高い高齢者施設の入居者、スタッフも全員検査してもらうという策も考えられます。

ロックダウンや強制的な検査は、自由を基本とするこの国の社会になじまないなら、せめて宣言によって人々の心に訴えつつ、積極的疫学調査を活用して感染者の増加を抑える策をとるべきです。これを根気強く進め、ワクチン普及によって状況が変わるのを待つべきです。

――ありがとうございました。(『最新医療経営PHASE3』2021年5月号)

相澤孝夫
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。

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