Dr.相澤の医事放談
第11回
医師の負担軽減で最も重要な
「夜間帯」の働きを精査すべき

12月14日の厚生労働省「医師の働き方改革の推進に関する検討会」で、「中間とりまとめ」が了承された。これにより、医師の過重労働改善に向けた取り組みが本格的にスタートすることになるが、一方で、その実効性について疑問を投げかける関係者は多い。相澤孝夫先生は「夜間」の実態に目を向けるべきと訴える。

「夜間帯は一律『勤務』」で誰が得をするのか

――12月14日の厚生労働省「医師の働き方改革の推進に関する検討会」で、「中間とりまとめ」が了承されました。とはいえ課題は山積しているようです。この問題をどう見ますか。

「医師の働き方改革」のそもそもの目的が、「医師の過度な負担を軽減する」ことであるのを忘れてはいけません。「2024年度までに時短計画を策定するのは難しそうだから、期限を延期してほしい」という声も聞かれますが、期限はあくまで目標達成のための目安で、とにかく取り組むことが重要です。

そのうえで言うと、最大の課題は「医師の夜間勤務」のあり方です。具体的には、夜間帯の医師の働きを「勤務」と見るか「当直」と見るかが焦点になりますが、この線引きについては曖昧にしたまま議論を終えてしまった印象があり、残念です。というのは、日勤帯以外、つまり「17時から翌朝9時まで」の16時間の間に、「少しでも働いたら16時間は丸ごと勤務扱い」となったら、国内のたいていの医療機関はたちいかなくなり、地域医療は崩壊するからです。

労基署の判断が実態に合っていない

――どういうことでしょうか。

実際、私が経営する相澤病院では、外科と産婦人科で夜間土日、祝祭日の緊急手術が月間で30件ほどある点をとがめられて「これは当直ではなく勤務扱いにしてください」と労働基準監督署から指摘を受けました。これを受けて医師を働かせないために「緊急手術は中止」としたら、この時点で、地域の救急医療体制は崩壊するのです。

しかし、医師たちは現状でも「楽です」とは言わないまでも、身体を壊したり不平を言ったりはしていません。たいてい6時間睡眠も確保しています。つまり、労基署は数字だけを追って、「医師の負担を軽減する」という目的にも実態にも合わない判断を下しているのです。

もちろん、毎晩、救急患者がたて続けに搬送されて、緊急手術も常に行われているような病院ならば、きちんとシフトを組んで勤務体制を整備すべきですが、大半の病院はそうではないでしょう。当院も、夜間休日の緊急手術が月間30件と言いましたが、毎日1件ずつあるわけではなく、ある日に2、3件集中することもあれば、季節によってまったくない日が続くこともあります。ただ、「緊急」ですから、いつあるかわからない。

そこで、単なる「宿直」にとどまらない「当直料」として、1晩5万6000円を用意しているのです。これを「勤務」体制にすべく、手術があるときのみ手当てを用意する形にすることもできますが、それでは、手術があるたびに医師は病院に駆けつけなければならないし、何より、医師一人ひとりの収入も減るでしょう。実際、現場の医師に相談したら「現行のままがいい」とのことでした。そちらのほうが安定した収入が見込めますし、負担も軽いですから、当然の返答でしょう。

医師勤務環境支援センターの役割が大きい

――どのような解決策が考えられますか。

「医師の働き方改革検討会」のなかで、順天堂大学医学部公衆衛生学講座の谷川武教授が「労働時間の短縮よりも睡眠時間の確保が重要」とご指摘され、検討会の報告書も、確保の目安として「6時間睡眠」を挙げていましたが、労基署の判断基準として用いられていないように思えます。明確な判断基準となっていなければ、労基署の現場の担当官も厳しい目安で判断せざるを得ないでしょう。

都道府県ごとに新設される「医師勤務環境支援センター」の役割は大きいと思います。病院ごとの勤務実態を確かめて、「医師の負担軽減」につながる方策を病院と一緒に考えていただきたい。労働時間短縮計画の評価はその後でも十分でしょう。そして、その実態を踏まえて労基署に伝え、合意を得ていくのです。

病院は監督される側ですから、なかなか反論するのは難しい。第三者的な立場から意見具申していただきたいです。

――ありがとうございました。(『最新医療経営PHASE3』2021年2月号)

相澤孝夫
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。

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