経営トップが知っておきたい病棟マネジメントと診療報酬
第4回
認知症・せん妄ケアは他職種で
医療の質と収入アップをめざそう
新型コロナウイルス禍において、病院の収入減は全国的に深刻な影響を与えており、少しでも確実に収入アップにつながる策を考え行動を起こす必要があります。認知症・せん妄ケアに対する加算は病院の収入アップのみならず医療の質の向上に繋がります。短期的な視野だけではなく、中長期的な視野で計画していきましょう。
2020年度診療報酬改定で「せん妄ハイリスク患者ケア加算」が新設されました。昨今の超高齢社会のなかで認知症・せん妄に対するケアが注目され、加算等の診療報酬上での評価も高まってきています。
これまで認知症・せん妄は「介護職や看護職者が発症後の対策を行うもの」という認識が強かったように思いますが、診療報酬改定の流れから、発症後のみならず、予防を含めたケアについて専門的な知識のもとで医師や薬剤師等を巻き込んで行うことでより成果が上がることが示されています。
認知症ケア加算は一なるべく上位をめざせ
認知症ケア加算に「2」という加算が新設されました(図1)。これは簡単に表現すると、「認知症の認定看護師」または「決められた認知症に関する研修を終えた医師(疑義解釈より認知症サポート医の研修で可との回答あり)」のいずれかがいることで施設基準を提出することができるというものです。
認知症ケア加算1・2における医師の要件は、決められている研修を受ける必要があり、スケジュールはあらかじめ決まっています(新型コロナウイルス感染症禍において認知症サポート医の研修は、今年度については中止が発表されましたが、今後のスケジュールには十分注意を払ってください)。たとえば、加算3から2に上がった場合、単純計算で1日につき倍以上の点数になるため、病院に与える影響は非常に大きなものになります。新型コロナウイルスに鑑みつつ、計画的に取得していきましょう。
身体拘束の全国平均は加算算定症例の3割
認知症ケア加算は1~3いずれも身体拘束が行われると点数が減算(4割減)されます。身体拘束を避けることは収入の面のみならず、患者のQOLを考えても有益なことです。図2は、最新のレセプト情報·特定健診等情報データベース(NDBオーブンデータ)より、認知症ケア加算の算定されたデータのうち、身体拘束の割合について都道府県別に見ているものです。全国平均は3割となっています。これをどう見るべきか、議論の分かれるところでしょう。身体約束は急性期の治療のなかでやむを得ないことも多くなりますが、身体拘束をしていたことが危険行動の要因となっていたケースも少なくありません。
最近では、新型コロナウイルス禍において稼働か下がっている病院もあります。稼働が下がっているのであれば、患者に目を配る時間が増えているはずです。業務の効率化はもちろんのこと、身体拘束に対する知識について改めて院内共有を行い、目標値を決めて改善行動をとっていきましょう。
また、認知症のコントロールが入院中にきちんと行われ、患者が安定しいることを患者家族に示すことにより、認知症があっても在宅で療養を行うことは可能であることを示すことになり、患者家族の安心につながります。入退院支援の一助となることも補足しておきます。
せん妄ハイリスク患者ケア加算は薬剤部との強い連携が必須
「せん妄ハイリスク患者ケア加算」(図3)は、多くの病院で算定が始まっており、おおよそ、入院患者の3分の1~半分について算定しいる病院が目立ちますが、本当に「せん妄ハイリスク」の患者かどうか、精度はまちまちというのが実態のようです。疑義解釈にてチェックリストは必要な項目(図4)が含まれていれば「院内オリジナルのもので可」と示されており、多くの病院で入院時に非常にシンプルなチェックが行われています。注意点は、せん妄のリスクとなる薬剤に対するチェックです。
ご承知のとおり、薬剤のコントロールは認知症・せん妄ケアにおいてとても大切です。しかし薬剤のコントロールは、主に患者のケアを行っている看護師ではなく、医師や薬剤師が権利や情報をより多く握っています。
どのような薬剤がせん妄を引き起こしやすいのか、ポリファーマシー対策である「薬剤総合調整評価加算」の算定にもつながる処方薬剤の減薬が検討されないかどうか、医師・薬剤師・看護師という専門職者が多職種で知恵を出し合うことでリスクのある患者を漏れなく抽出し、適切なケアを行うことで医療の質と病院収入のアップにつなげていきましょう。(『最新医療経営PHASE3』2020年10月号)
まとめ
- 認知症ケア加算は2段階から3段階へ! 中長期的な認定看護師または医師の育成を。
- 身体拘束はなるべくしたくない! 患者の身体に接触させるという身体拘束以外のケアを工夫せよ。
- せん妄ハイリスク患者ケア加算はほとんどの病院で算定が開始されている!薬剤部と連携し、せん妄を起こしやすい薬剤のチェックを確実に行おう。
株式会社メディフローラ代表取締役
うえむら・ひさこ●東京医科歯科大学にて看護師・保健師免許を取得後、医療現場における人事制度の在り方に疑問を抱き、総合病院での勤務の傍ら慶應義塾大学大学院において花田光世教授のもと、人事組織論を研究。大学院在籍中に組織文化へ働きかける研修を開発。その後、医療系コンサルティング会社にて急性期病院を対象に診療内容を中心とした経営改善に従事しつつ、社内初の組織活性化研修の立ち上げを行う。2010年には心理相談員の免許を取得。2013年フリーランスとなる。大学院時代にはじめて研修を行った時から10年近く経とうとする現在でも、培った組織文化は継続している。