実践的看護師マネジメント
第10回
「指示的」「非指示的」
相手と状況に応じて使い分けることが重要
看護師の対応は「優しい」にこしたことはない。しかし、患者の闘病意欲を引き出すためなど、時には「厳しい対応」(指示的)が有効なことも多い。患者の状況に合わせて「指示的」と「非指示的」な対応を使い分けることができる看護師が優秀なのだと元看護師の奥山美奈・TNサクセスコーチング代表取締役は言う。
指示的(厳しい)対応はどんなときに役に立つか
前回、注射を大の苦手とする長女が、手術当日、18Gの留置針をすんなり受け入れることができたエピソードを紹介しました。やはり「非指示」的対応は患者の不安を軽減し、持っている力を引き出すことができます。
一方で、毅然とした指示的な対応(厳しい)が有効なことも多々あります。術後から退院までを受け持った看護師は指示的(厳しい)で、長女が「痛いから歩きたくない」などのわがままを通そうとしても聞き入るタイプではなく、その対応のおかげで予定どおり退院することができたとも思います。優しい対応も厳しい対応もどちらも必要。そんなふうに言えるのではないでしょうか。
「指示的」「非指示的」な対応は、状況に応じてそれぞれ役に立つことがわかります。不安が強い患者の入院の受け入れは非指示的に、治療に対して決断が必要なときには指示的に、急変時のリーダーシップや新人指導時には指示的に――といった具合に、どちらの対応もできるというのが理想でしょう。
よく「新人を教えるときにティーチングに重きを置くべきか、それともコーチングか」と聞かれることがありますが、国家試験に合格しただけで右も左もわからない新人から何かを「引き出そう」としても無理な話です。まずは、ティーチング(指示的)で仕事の手順やさまざまな注意点などを教え、ひととおりできるようになった時点で「この場合、患者さんの個別性を考えるとどうしたらいいと思う?」と優しく非指示的な対応で考えを引き出すようにするとうまく育ちます。
私自身がコンサルタントとしてベテランのスタッフにかかわるときには非指示的な対応が多いですが、新人とかかわるときには指示的に話すというふうに、それぞれ、相手へのかかわり方を変えています。
なぜ状況に応じて使い分けるようになったのかというと、私自身の経験によるところが大きいのですが、経験豊富なベテランスタッフで編成された新規プロジェクトチームにあれこれ言うとやる気を奪い、非指示的に、ある意味「任せっきり」にしたらプロジェクトがどんどん進んだことが多かったからです。
「非指示的」「指示的」か自らの対応を知ってもらう
患者にも部下にも慕われているプロフェッショナル看護師は、どちらのかかわり方もできる人たちですが、ここまで器用な人はそう多くはありません。まずは、看護師に自分は指示的か非指示的のどちらの対応をとることが多いのかを自己認識させるとうまくいきます。多くの人は「非指示的」か「指示的」かどちらかに偏っているものですが、問題は、自分がどちらのタイプか知らないということです。
指示的なタイプの看護師は、自分は「キツい」とは思っていない。「人は甘やかすと調子に乗る。だから厳しいほうが、本当の意味で優しいのだ」「褒めると手を抜くから、褒めないほうが伸びる」などの持論が邪魔をして、優しい対応が(非指示的に)できないというようなこともあります。こういう場合は「考え方のゆがみ」を見直すためのフィードバックが必要です。
「非指示的」「指示的」、いずれの姿勢も、相手と状況に応じて適切に用いれば大きな可能性を相手から引き出すことができます。「指示的」非指示的」とは何か。どういう状況で役に立ち、自分はどちら側に傾いているのかを意識させることが重要です。(『最新医療経営PHASE3』2020年10月号)
TNサクセスコーチング株式会社代表取締役
おくやま・みな●教育コンサルタントとして管理者育成、人事評価制度構築、院内コーチ・接遇トレーナーの認定を行う。病院、介護施設のコンサルティングの他、全国各地の病院、看護協会等で講演も行う。