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withコロナに伴う社会変革で医療機関の働き方改革が加速する
社会のデジタル化は多種多様な働き方をもたらす 柔軟な雇用スタイルの構築が優秀な人材の採用につながる
コロナとの共生が前提に
そろそろ収束するかと思っていたが、7月に入ると新規感染者が急増、もはや収束を前提に病院経営を考えても仕方ないのかもしれない。このような状況下で、内閣府が「選択する未来2.0」という会議を開き、Withコロナを前提とした社会のあり方について検討を進めている。そこで示されたのが図表である。
Withコロナになると、生活の何が変わるのか。わかりやすいのは「オンライン」が深くかかわってくることだ。あわせて、働くという視点では「働き方改革」も欠かせない。
これらは、以前から推進されており、コロナによって強制的に加速した。不思議に思うのが、誰もがスマホを持ちち、リモートワークやリモートサービスを受けられるテクノロジーが整った現代において、コロナが広がったことである。20年前なら、技術的に新しい生活様式はできなかったであろう。
本命はバックオフィスの効率化
受診という視点でのオンライン活用は、かなり限定されそうだ。オンライン診療といっても、やはり対面で診ないとわからないことが多い。特例で初診でも可能になったが、爆発的には増えてぃない。もちろん、限定的に広がる領域はあるだろうが、大半の診療はリアルな医療提供が優先されそうである。入院医療をオンラインで、在宅に切り替えるには、技術革新が必要だろう。
では、医療機関における働き方という視点ではどうか。これもリモートワークとなるとハードルが高い。
ただ、バックオフィスといわれる経理や労務といった業務や、医事課のレセプト作成などは行える可能性はある。最近は多拠点展開している医療機関も増えてきたが、一般的には病院という一つの建物内で業務を完結させているところが大半だ。他業界で全国展開している企業では、バックオフィス機能を一元管理しているところがほとんどである。一方、医療機関ではグループでも、施設ごとにやっているところもまだあり、大きく効率化できる分野であろう。
オンラインワークの延長上にあるのが、働き方の多様性である。短時間や週数日の勤務スタイルや、複数の企業に勤めるといったことも、柔軟に考えざるを得なくなっていく。筆者の病院では、たまたまそうした事例を認めていた。プロバレーボール選手が介護職として勤務しながら練習をしたり、農家をやりながら時給制で病院の農園を手伝ってくれたり、週1日は友人が始めたデイサービスを手伝っている理学療法がいたり、と多種多様な働き方が始まっている。職員の自己実現も含め、こうした流れは加速されるだろう。
ICT化で働き方は変わる
医療機関におけるリモートワークは難しいにしても、ICTによる働き方改革は加速される。コロナ禍で病院間の行き来もピリピリとしている。これまで対面が重視されてきたカンファレンスも、オンラインが浸透しつつある。2020年度診療報酬改定で多くの項目でオンラインカンファレンスが可能となった。技術的に可能なら、できるだけ接触を避けるという名目でオンライン会議が浸透していくはずだ。
勉強会や学会もオンラインで実施するところが増えてきた。数力月前は使い方がわからないといった話もあったか、今ではオンライン会議システムがだいぶ浸透してきている。まだ見えてきていないのが、住民を巻き込んだ活動をオンラインで行うことである。良い事例が出始めることを期待したい。
密の根本的問題は都市化
先述の方針に密の解消という項目がある。これは、都市部の課題だ。筆者も東京で10年近く生活したが、人の多さと密度の高さは、考えられない状況であった。一方、田舎だとそんなことはなく、レストランの席と席も十分に間隔があるし、見知らぬ人と肌を接して電車に乗ることもない。この課題の解決の方向性としては、”分散”といったことが示されている。それこそインターネットがなかった時代は都市部にいると、いろいろな情報や人とのネットワークが広がりやすかった。しかし、今では地方にいても情報格差はなく、コロナ禍でオンラインのコミュニケーションが増えていくと、都市部にいるインセンティブは低くなった。
田舎ではお店を開いても、なかなか人が集まらないが、今ではオンラインで物販もできる。こうした対応は、医療機関でもできないことではない。ちなみに当院は、地元の茶葉を使った健康茶をインターネットで販売しているが、毎月300個近く売れる。もちろん、収益としては微々たるもので、お遊びの域を超えていない。
地方でもオンラインを利用すればそれなりの収益を得られる可能性はある。しかし、だからといって都市化が止まり、さまざまな機能が地方に分散されるのは難しいかもしれない。コロナ禍により一時的にそのような傾向が強まるかもしれないが、中長期的には人類史上ずっと続いている都市化が感染症を契機に止まるのかは憶測の域を超えない。(『月刊医療経営士』2020年9月号)
(特定医療法人谷田会 谷田病院 事務部長)