実践的看護師マネジメント
第9回
「優しい」看護師は患者が持つ潜在能力を引き出す
患者や家族から看護師に求められる姿勢として「優しい対応」が挙げられるが、医療現場では時には「厳しい対応」も必要だ。どのような場面でどのような対応が求められるのか。看護師経験もある奥山美奈・TNサクセスコーチング代表取締役が解説する。
優しくおだやかな対応で患者さんやスタッフにも好かれる看護師。しかし、患者さんやご家族が大きな決断をしなければならないときや、患者さんの急変時などリーダーシップを発揮しなければならない場面などでは、ちょっぴり「頼りない」。ここでは、あらためて「優しい看腰師」と「厳しい看護師」の言動の違い、そしてそれらの対応がどんな時に適するのかを考えてみます。
優しい=非指示的 厳しい=指示的
表は、私がコーチングや研修で活用している指示的、非指示的な言動を分類したものです。患者満足度調査などでもよく、満足の理由として「スタッフが優しいから」という答えが上位に挙がりますが、私は「優しい対応」のことは「非指示的」、「厳しい対応」のことを「指示的」ととらえています。
非指示的な対応(優しい)とは、穏やかにゆっくりと耳で話しかけたり、優しいまなざしと言葉で人を励ましたり勇気づけたりする言動を指します。
一般的に人は看護師に「優しさ」を求めるものですが、逆に、ビシッと言ってもらいたいというときもあります。患者さんやご家族に選択肢を示して選んでもらう必要があるときなどは、ハキハキと短時間でいろいろな情報を伝えなければなりません。厳しい選択肢を選んでもらうときには、あえてクールに振る舞うこともあるでしょう。こうしたときは、指示的な対応(厳しい)が望ましいと思います。
注射が苦手な長女に対応した優しい(非指示的)看護師
数年前、長女は都内のある病院に入院し手術を受けました。1時間程度で終わるものでしたが、先端恐怖症があって注射を大の苦手とする長女にとっては一大事。ルート確保の時点から大暴れで、退院指導に至るまで終始反抗的な態度でした。そんな長女にタイプの違う看護師がそれぞれ的確な対応をしてくれたおかげで、スムーズに無事、予定どおりに退院することができました。
入院の受け入れとルート確保をしてくれた看護師は非指示的な優しいタイプの看護師。手術当日から退院までの担当看護師は、クールで「できることはできるが、できないことはできない」とビシッとモノを言う指示的な人でした。
娘ははじめこの看護師を怖がっていましたが、結果的に、この指示的な看護師が手術当日から退院までを担当してくれたおかげで、長女の甘えが出る場面がなくスムーズに退院することができたのではないと今となっては思います。
長女は、小学校の2年生のときからまともに採血や注射ができませんでした。これまでかろうじて注射ができたというのは中学1年生のときで、ケガでどうしても皮膚の縫合が必要で麻酔をしたときと、急性虫垂炎で緊急入院したときのたったの2回。
今回の入院でも、大人が4人がかりで押さえつけても暴れて、採血すらできずにいました。それでも非指示的な看護師が「注射って嫌だよね、怖いよね。わかるよ。看護師さんだって本当はしたくないって言いたいんだもん。でも、患者さんにたくさんお注射やっているのにそんなこと言えないよねって我慢しているんだよ」と、大声で泣きわめく長女にこのうえない優しい声をかけてくれました。その言葉を聞いて長女もだんだん素直になりましたが、それでも注射はやはりできません。
情けなくて私も泣けてきました。なぜなら、この日のために親子でもできる限りのことをしてきたからでした。藁にもすがる思いで「注射が怖くなくなる」という自己暗示(動的催眠)をかけてくれる民間のカウンセリングルームに入院前日まで毎日通いました(5回のカウンセリングで5万円と高額)。
それでも、手術当日はやっぱり怖くて逃げ出そうとするため、午前中に精神科を受診。デパス2錠を処方してもらい飲ませ、何とか午後から入院したり、親子でどうにか手術ができるようにと努力しながら臨んだ入院だったのです。
1時間たっても点滴ができず、私も長女も「やっぱりダメか」とあきらめかけていると、看護師がおだやかな調子で「絶対に入るから大丈夫。もう1回だけがんばろう」と声をかけながらチャレンジしてくれました。すると、何と18Gの留置針がすんなりと入ったのです。
「注射できた!」と、長女は大声で喜びました。やはり、非指示的な対応は患者の不安を軽減し、持っている力を引き出すことができるのだと実感しました。
(『最新医療経営PHASE3』2020年9月号)
TNサクセスコーチング株式会社代表取締役
おくやま・みな●教育コンサルタントとして管理者育成、人事評価制度構築、院内コーチ・接遇トレーナーの認定を行う。病院、介護施設のコンサルティングの他、全国各地の病院、看護協会等で講演も行う。