DATAで読み解く今後の方向性 地域医療・介護向上委員会【特別編】
新型コロナウイルス感染拡大を受けた
外来患者数の現状と方向性
~都道府県・診療科・国際比較の視点から~
新型コロナの打撃は病院より診療所が大きい
新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、外来患者数は激減しており、緊急事態宣言が明けてもコロナ前の患者数水準に戻らないという声が後を絶たない。実際にどの程度減少したのか、今後もこの傾向が続くのか、本稿では実際のデータを交えながら検討する。
すでにさまざまなアンケート調査で、新型コロナウイルス感染拡大を契機とした外来患者数の激減が指摘されてきた。社会保険診療報酬支払基金が公表した4月度の月次報告よれば、入院外(在宅医療を含むが本稿では外来とみなす)における診療報酬は、前年同月比が件数ベースで24%、金額ベースで16%の減少と、それぞれ14%、6.0%の減少であった3月度に比べてさらに落ち込んだ。
4月度の病院と診療所の外来を前年同月と比較すると、件数ベースでは、病院19%減少に対して診療所は24%減少、金額ベースでは、病院10%減少に対して診療所は21%減少と、診療所のほうがマイナス幅は大きかった。このように、病院よりも診療所のほうが打撃を受けていることがわかる。
診療所の外来について、診療科別比較を行ったのが図1である。最も患者数が減少したのは耳鼻科と小児科で、約4割減少、眼科も約3割減少、内科は2割減少、皮膚科や産婦人科は最も影響が小さく、約1割減少だった。また、在宅医療の訪問件数はほとんど変わっていないという指摘もある。このように、診療科によって患者の減少率に差異がある点も特徴的だ。
都道府県別に見ると、緊急事態宣言下で「特定区域」に指定された13都道府県での患者減少が目立つ(図2)。特に東京都は件数ベースで34%の減少、金額ベースで23%の減少が見られ、首都圏や大阪圏は約3割の患者減少が見られた。他方で、岩手県のように約1割の減少にとどまっている県も存在する。
なお、図2は病院と診療所を合わせたデータであり、診療所のみのマイナス幅はもう少し大きいと考えられる。また、今回取り上げた、「社会保険診療報酬支払基金」のデータは、後期高齢者が含まれていないなど、テータに限界がある点には注意が必要だ。
アクセスの悪化により必要な医療の患者も減少
外来患者数が減った要因はいくつかあると考えられる。よく言われているのは、外出の自粛要請を受けて、不要不急の受診を控えたからである。結果、セルフメディケーションが進んだという指摘もある。加えて、マスクや手洗いなどの感染予防を十分に行ったことで、急性疾患になりにくかったということもあるかもしれない。
他方で、必要な受診が抑制されたのではないかとの指摘もある。健康診断が延期されたことや受診が遅れたことで、病気の発見・治療が遅れた人が一定数いるだろう。また、長期処方が広がったことで、慢性疾患の管理が十分に行われていないケースが増加しているかもしれない。
このように、新型コロナの感染拡大を受けた患者数の減少要因については、不要不急の受診が減った面と必要な医療へのアクセスが悪化したという面があり、今後、分析が必要だろう。
アクセスの改善という意味では、4月より初診患者に対する電話・オンライン診療が暫定的に解禁されたが、初診に占める割合は1%にも満たないといわれ、普及しているとは言えない。電話・オンライン診療にはさまざまな限界があり、短期的には、対面診療に代わるものにはならないだろう。
このような観点を踏まえ、今後の医療のかかり方について改めて検討が必要だ。
OECD平均になれば外来患者数は半減する
緊急事態宣言が終了して以降、患者数は徐々に戻ってきているという話を診療所経営者から聞くことが多い。短期的には、かかりつけ患者の再診や、健診の再開による二次健診、コロナ抗体検査・PCR検査等の拡大の見込みもあるだろう。他方で、第二波が迫るなかで、不要不急の受診の回避(セルフメディケーション強化)、長期処方の継続といった観点から、患者の受診行動が変容したままの状況が続くことで、コロナ前水準には戻らない診療所も多いのではないだろうか。
前述のとおり、在宅医療における訪問件数は前年比で大きな減少は見られない。果たして在宅医療には不要不急の訪問診療はないのだろうか。多くは2週間に1回であるが、これは長期処方が推進される前の外来処方(=2週間分)と同じで、今後は必要に応じて、訪問診療の頻度の減少やオンラインでの代替を行うことで、将来的には在宅医療の訪問数は減少していく可能性がある。在宅医療は外来医療に比べて「供給誘発需要」の側面が強いので、すぐには変わらないと思われるが。
OECDのデータによれば、そもそも日本人の外来受診頻度は年12.6回と、韓国に次いで多い水準にある。仮にOECD平均(年6.8回)並みに減少するとすれば、外来受診頻度は約半減するという計算になる(図3)。新型コロナウイルス感染拡大の第二波の到来が予測されるなか、外来患者数がどれくらいの水準に収束していくのかについては推測が難しいが、医療機関経営者にとって、マーケット規模が半分になることを見越した経営を行っていく必要があるのかもしれない。(『CLINIC ばんぶう』2020年8月号)
筑波大学医学医療系客員准教授
いしかわ・まさとし●2005年、筑波大学医学専門学群、初期臨床研修を経て08年、KPMGヘルスケアジャパンに参画。12年、同社マネージャー。14年4月より国際医療福祉大学准教授、16年4月から18年3月まで厚生労働省勤務