Dr.相澤の医事放談
第5回
新型コロナ禍で浮上した病院経営の根本的な問題を解決すべき
新型コロナウイルス感染症対策のなかで、国から医療機関に向けてさまざまな財政支援が用意されている。しかし、相澤孝夫先生はこの機会に「病院経営の根本問題」に向き合い、取り組むべきと指摘する。具体的には「人数を多く診ることで何とか経営を存続させる」というあり方からの脱却だが、それには、診療報酬体系も見直すべきという。
病院経営の根本問題がコロナ禍で浮上した
――相澤先生が会長を務める日本病院会は6月10日、加藤勝信厚生労働大臣宛てで「病院経営安定に係る診療報酬に関する緊急要望書」を出していますが、このなかで新型コロナウイルス感染症への対応をきっかけに「これまで表出されなかった日本の病院経営における根本問題」が浮上したと指摘しています。
一言で表すならば、これまでの病院経営は無理に無理を重ねてきたということです。今回のコロナ禍で「不要不急の医療は控えよう」との動きがありましたが、病院はそうした医療にも手を広げることでどうにか収益を確保してきた実態が明らかになったとも言えます。
日本病院会が全日本病院協会、日本医療法人協会と実施した「新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況緊急調査」では、4月の外来診療収入が前年同月比11%減となっていますが、これは「病院に行くと新型コロナに感染するかもしれない」と「ちょっと身体の調子がすぐれないので診てもらいたい」を天秤にかけて、後者の心配がそれほどでもない場合は「病院に行くのは控えよう」と……。そういう判断を多くの患者さんが下していることも一員と考えられます。
裏を返せば、患者さんはもともと外来に来なくてもそれほど困らなかったにもかかわらず外来に来ていたという側面もあるわけです。
一方、病院はそうした軽症患者さんも含めた大勢の患者さんを診ることで、どうにか経営を存続させてきたわけです。その結果「3時間待ち、3分診療」と揶揄されることもあったのですが、このような忙しい診療を行わなければならない現状を見直すべきではないかと思うのです。
一人ひとりの患者さんやご家族と真摯に向き合っていくという、ゆとりをもった医療を提供することで十分経営していける診療報酬のあり方を追求してほしいと考えているのです。
オンライン診療ではなく「オンライン相談」
――「病院にかからなくてもいい」という意味では、オンライン診療が初診から認められるようになりました。
オンラインで済んでしまう診療を「診療」と位置づけることに違和感を覚えます。現在のオンライン診療の仕組みを聞いていると、「診療」というより「相談」と表現したほうが適切な気がします。少なくとも、これに「診療料」をつけるのは無理があるでしょう。せめて「相談料」のような形で別枠にするのが健全だと思います。
そもそも私たち医師は、問診内容を見て、血圧、脈拍や呼吸を測ることに加え、触診、聴診、患者さんの様子も踏まえて緊急性、必要性の高い検査を選択しているのです。症状を入力して患者さんの顔を撮影し、その画像をもとに「あなたはこれが疑わしいからこの検査をしてください」とやりはじめたら、検査数は大変な数になるでしょう。これでは「診察」とは呼べません。それこそ医療費が高騰するのではないでしょうか。
それに、私が経営する相澤病院ではコロナ禍でも再診の患者さんは減っていません。長期処方ですんでしまうような患者さんはもともと来ていないからです。
早期発見、早期治療に向け健診事業の復活をめざす
――患者さんの足が医療機関から遠のくと、病気の早期発見、早期治療の可能性が損なわれるという心配もあります。
私が懸念しているのは、健診事業の自粛が続いていることです。症状はないけれど、健康診断を受けたら腎臓に影があって調べてみたら腎臓がんだったという患者さんは、当院でも結構います。まさに早期発見、早期治療です。それが現在はぱったり止まっているのです。
この仕組みは日本独自のもので、医療の質を高めることにもつながっていると思います。症状もない人を早く発見して手を打つことで、社会活動を継続できるようにしてきた側面もありますし、ひいては、健康を維持しながら働く人を増やすことに役立っているのです。
医療経済への貢献度も高いです。早期に治療することで医療費としても当然抑えられるでしょうし、健診は健康保険組合や自費によって運営されているので、診療報酬には載っていません。こちらの流れはすぐにでも回復させる必要がありますが、それには、利用者の方々が安心して受けられる環境を醸成していく必要があります。当院の健診センターも頑張っているところです。
――ありがとうございました。(『最新医療経営PHASE3』2020年8月号)
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。