実践的看護師マネジメント
第8回
組織を「ぬるま湯」と感じる「熱いスタッフ」が現場を変える
前回、組織の「システム温」と職員の「体温」はしばしばズレが見られることを解説してもらったが、今回は、両者の温度を把握し、「合わせる」ようにマネジメントすることで相乗効果が発揮する例を紹介してもらう。
組織の変化性向と本人の「体温」を知る
前回に続いて、組織の「湯かげん」について考察したいと思います。まず、経営学者の高橋伸夫氏の作成した質問文を見てみましょう(表)。
システム温を問う質問は「チャレンジする風土があるかどうか」「高い業績を上げたものが昇進するような変化があるかどうか」「個性を発揮するより組織風土に染まることを求められるかどうか」──などで、図内の組織の変化性向(図横軸)を聞いています。
一方、「問題意識を持って改善をしているか」「従来のやり方・前例にとらわれない仕事をしているか」など、「どのくらい仕事に燃え改善しながら進んでいるか」の質問は体温(図縦軸)を図っています。私は、顧問先でこの質問をもとに各部署でアンケート調査を実施しています。アンケートはQRコードから答えることができますので、試していただければと思います。
このアンケート結果に基づいて、私は現場に介入し、対処しています。
たとえば「4階病棟は仕事が大変で辞めたいと思っている(熱湯と感じている)人が5人いて、すぐに対処が必要」「2階病棟は忙しい忙しいとスタッフは言うわりに『ぬるま湯』と感じている人が7人いるので、この病棟には看護研究などの負荷をかけても大丈夫」──というようにフィードバックできるのです。
お世辞抜きにこの研究は精度が高く、これまで、組織の現状を把握し改善するのにとても役立っています。
「ぬるま湯だ」と答えたケアワーカーの「熱き思い」
ある組織で聴取したアンケートでは、病棟のケアワーカーが「ぬるま湯」ゾーンにいるという結果が出ました。看護助手の業務もこなすケアワーカーの仕事はとても忙しいはずなのに、なぜ結果が「ぬるま湯」なのか、私は不思議に思いました。
早速、ケアワーカーと面談して思いを聞くと
「レクリエーションが少ないこの組織の仕事は、ワーカーにとっては『ぬるい』。本当はもっとレクをやらなければ『いい介護』とは言えない。看護助手業務(経管栄養の栄養剤の準備や点滴や吸引の準備等)は本当のワーカーの仕事ではない。『看護助手』なんて呼ばれたくない。私たちは『ケアワーカー』なんだ」
と言うのです。
感動しました。この答えからわかるとおり、この組織のケアワーカーは利用者のQOL(生活の質)を高めようとする「熱き人々」なのだということが、ひしひしと伝わってきました。
レクリエーションの実施は、準備から開催までかなりの労力を要します。他の高齢者施設で「大変だ、大変だ」といいながらレクをやっていた職員を見ていた私は、「レクをやってあげたい」と思っているような質の高いワーカーが存在するとは思ってもみなかったので、正直、驚きました。そして、自分の先入観を手放し、すぐに私は施設長にレクリエーションを増やすことを提案しました。
今では、この組織では週に1度のレクは当たり前というふうにガラリと風土が変わりました。1年後に聴取したアンケートでは、自分の組織は「ぬるま湯」だと答えるケアワーカーは減って、「適温」が増えました。
しかし、もともと体温が高くないワーカー(水風呂位置する者)にとってはレクが増えるのは迷惑で、湯音が上がった(仕事が増えた)と感じ、退職していきました。
組織に変化を起こせば、一時期、水風呂スタッフは辞めていき離職率は上がります。しかし、「本当のケアを追求したいという質の高い職員のやりがいをつくり、よいスタッフを集めたほうがいい」ということは明白でしょう。(『最新医療経営 PHASE3』8月号)
おくやま・みな●教育コンサルタントとして管理者育成、人事評価制度構築、院内コーチ・接遇トレーナーの認定を行う。病院、介護施設のコンサルティングの他、全国各地の病院、看護協会等で講演も行う。