女性医療経営士の“働く”を応援する MMS Woman Lab
Vol.73
多様化するコミュニケーション手段・特色を把握して 最適な活用を
<今月のお悩み> 広報プロジェクトチームに所属しています。在宅勤務の職員もいるため基本的にメーリングリストを作成してやりとりしています。今月のイベントの開催に向けて準備を重ねているところですが、チラシの発注に関して、リーダーとのやりとりがうまくいかず、ちょっとしたトラブルにつながってしまいました。お互いにわだかまりが残っている状況ですが、どうすれば良かったのでしょうか。
文字だけのコミュニケーションは誤解が生まれることもある
新しい生活様式、新しい習慣のなかで、仕事の仕方も少し変わってきていますね。職場での打ち合わせや情報共有の手段は、対面での会話、ビデオ通話、音声通話、メールや文書といった文字など、バリエーションが増えたのではないでしょうか。
対面での会話の場合、リアルタイムで顔を合わせて反応や言葉になっていないノンバーバルな部分も情報収集ができるので意思の疎通が図りやすく、誤解が生まれても解消しやすいものです。しかし、文字だけになると難しいことも出てくるため、丁寧な説明と確認を繰り返す必要が出てきますね。
院内でも密を避けなければならず、また、部署によっては在宅勤務の職員もいる状況のため、オンラインでの文字による対話(チャットなど)やメールの活用が今まで以上に増えてきているのではないでしょうか。
全員がオンラインの状態で、チャットなどを用いて会話をしているような状況であればタイムリーにやりとりができますが、メールの場合は送ってから受け取る側がメールを確認して、返信するまでに時間がかかることがあります。
開封確認などをつけてメールを送っていれば相手が読んだかどうかはわかりますが、すぐに返信が来ないこともあります。「時間の経過」も考えておく必要があるということです。
今回のご相談を少し整理してみましょう。広報プロジェクトのメーリングリストでのやりとりが発端となって、次のような経過をたどりました。
今月のイベントチラシの原案が出来上がり、いよいよ印刷会社に発注をかけようという段階になって、リーダーから「発注は相見積もりが必要だし、まずは稟議を上げてください」というメールが入った。
それに対してメンバー間では、「今期に発注するチラシ12回分はすでに承認済みだったはず」「先月のミーティングでも確認したのに」「毎回見積もりをとるの?」と立て続けにやりとりがあり、それに対してリーダーからの返信がなかった。
「イベントに間に合わなくなると困るから」と不安に駆られたメンバーが印刷会社に見積もりの依頼を出したところ、1時間後に別の会議から戻ったリーダーから「チラシだったら、そのまま発注で大丈夫です。イベント会場の看板かと思いました」という返信が入り、慌てて印刷会社に連絡を入れた。そういう顛末でした。
リーダーのちょっとした勘違いと、メンバーが返答を待たずにアクションを起こしてしまったことによって発生した出来事です。お互いに少し嫌な気持ちが残ったということですが、もしかしたら、確認の電話を1本入れることで、この事態は起こらなかったのではないでしょうか。
電話を入れることで勘違いや不安を解消できることも
パソコンの画面だけを見つめてメールやチャットだけのやりとりに集中していると、それ以外の手段があることを忘れがちになります。しかし、すぐに返事がほしかったり、今回のように「あれ? おかしいな」と感じたりした時には、職場のメンバーなのですから、躊躇なく「少しお時間いただいてもよろしいですか」と、電話をしてみてはどうでしょうか。そうすれば、別の会議に出ていてメールを見ていなかったこともわかったかもしれませんし、リーダーから「会議が終わったら返信します」という返事がいただけたかもしれません。これにより、お互いの勘違いと不安を解消できたのではないかと思います。
コミュニケーションの手段は多様化していますが、それぞれの特色をしっかり把握して、最適な使い方を考える必要も出てきていると感じています。急ぎの用件の時、ディスカッションをしたい時、しっかり記録で残しておきたい時など、目的や用途に合わせて上手にツールの使い分けをしていくことが大切です。
このお話を聞いて、「メールを送ったのですが、着きましたか?」と電話をいただいていた時代を思い出しました。その頃を知っている人も少なくなったということなのでしょうが、電話も含めて状況に合ったコミュニケーションツールを選択することが求められているのだと思います。
〈石井先生の回答〉
今回のトラブルは、メンバーがリーダーに対して確認の電話をすることで、防げたかもしれません。早めに返事がほしい時や変だなと思った時は、遠慮せずに電話で確認をしてください。コミュニケーションの手段は多様化していますが、目的や用途に合わせて上手に使い分けていくことが大切ではないでしょうか。
(『月刊医療経営士』2020年8月号)
いしい・ふみ●医療情報技師、医療メディエーター。民間企業でソフトウエア開発のSEとして勤務した後、社会福祉法人に入職。情報システム室などを経て経営企画室長に 就任後は新規事業の企画、人材育成などに携わった。現在は医療経営人材育成活動、企業向け医療ビジネスセミナーなどを行うとともに、関西学院大学院、多摩大学院にて「地域医療経営」の講座を担当している。著書に『2018年度同時改定からはじまる医療・介護制度改革へ向けた病院経営戦略』『経営企画部門のマネジメント』(ともに日本医療企画)ほか