Dr.相澤の医事放談
第72回
便利さの裏に潜む「歪んだ医療」
身近な医療提供体制を考える

「便利だから」では、本来果たすべき役割とは異なる方向に進んでしまうのではないだろうか。日本病院会の会長を務める相澤孝夫先生は、オンライン診療が本来の「過疎地を救う手段」から逸脱し、都市部の利便性や営利企業が参入するリスクに危機感を募らせる。「身近な医療をどのようにするのか」というグランドデザインを描くことが先にあるべきだと訴える。

本来の目的と「歪み」への懸念

オンライン診療というのは、スマートフォンやタブレット、パソコンなどを使って、自宅等にいながら医師の診察や薬の処方を受けることができる診療です。ただしこれまでのあり方は、医療機関に来られない方が薬をもらえるというところが中心となってしまい、本来の目的から逸脱しているように思います。
本来は「高齢者が増加して通院困難な方が出てくることにどう対応するか」、あるいは「人口密度が低くなり身近な医療機関がなくなっていくなかでどうカバーしていくか」というためのものだったはずです。
そのため、これまでのやり方を踏襲して進めていくと、どんどん歪んだ方向に向かってしまうのではないかと危惧しています。

たとえば都会などで「医療機関に行くのが面倒くさいからオンラインで」というのは、本来果たすぺき役割とは異なっていますよね。
もし、北海道の方が東京の医療機関の医師からオンラインで薬を処方してもらうようなことがまかり通るのなら、それは全く方向違いです。何のために、どうしてやるのか――というそもそもの目的や趣旨を明確に定義したうえでしっかりとした「統御」をかけないと、変な方向に行ってしまうのではないかと懸念を感じています。

「ザル法」が招く参入リスク

今の議論を見ていると、手続きの規定や受診場所をどうするかという話ばかりになっていて、本当に困っている地方の状況を解決する視点が欠けている気がします。このままスタートしたら、医療機関ではない株式会社などがさまざま参入し、保険診療のお金がそこへ流れていくとしたら、これは違う次元の話になってしまうのではないでしょうか。

たとえば、オンライン診療の場所はどこでもいいということになれば、株式会社が建物だけを建て、そこを貸して利益を得るというようなことがいくらでもできてしまいます。私がこれを逆手に取ってやろうと思えば、全国展開の株式会社をつくってプレハブの施設を各地に建て、「どうぞお使いください」と患者を集めることだって可能です。
診療所側も、経営を考えればオンラインで効率よく患者を集めたいと結託するかもしれません。看護師を一人雇用してつけていれば、「D to P with N」という形も簡単にできてしまいます。
こういう抜け穴だらけの「ザル法」にならないように、厚生労働省にはもっと現場の状況を把握して、慎重に吟味していただきたいと切に願います。先日の四病院団体協議会での会合でも、疑問視する意見が出ました。

医療提供体制のグランドデザインを急げ

根本的な問題は、身近な医療をどう構築していくのかという「グランドデザイン」が全く描けていないことです。地域医療構想の検討会などでも、身近な医療をどうしていくかという議論が全く出てきません。それなのに、オンライン診療という手段だけが先行してしまって、診療報酬で手当てをしようとしていることについては、「ちょっと待てよ」と言いたくなります。

私は個人的に、2013年の社会保障制度改革国民会議からの10年間を「失われた10年」と呼んでいます。加えて、「働き手の減少」という新たな問題も起きていて、都会志向で働き手が都市部に偏在し、医療・福祉・介護については地方が置き去りにされているのです。
この先のビジョンが見えないから、地方の医療者は将来に希望が持てませんし、夢も描くこともできません。頑張って続けようと思っていても「もう止めた」という話になっても、不思議ではない状況なのです。

地方が見捨てられつつある現実のなかで、すべての国民が安心して暮らせるインフラとしての医療・福祉・介護のあり方を徹底的に話し合い、グランドデザインをしっかりと描いてもらいたいと思います。
オンライン診療も、その大きな課題の一つです。本来は、身近な医療を守るための対策であったはずのものが、都会への一極集中を助長する道具になってはいけないと私は考えています。(『最新医療経営PHASE3』2026年4月号)

相澤孝夫
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。

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