Dr.相澤の医事放談
第19回
行政のコロナ対応要請はわかるが
その前にすべき「情報共有」の徹底

8月23日、田村憲久厚生労働大臣と小池百合子東京都知事が連名で、改正感染症法16条の2に基づき、都内の医療機関を対象にコロナ患者を最大限受け入れることを要請すると表明。法律に則った要請は初めてで、正当な理由なく要請に応じない場合は勧告し、従わなかった際は病院名を公表するといった内容で話題となった。相澤孝夫先生は、行政の取り組みとして一定の理解を示しつつ、「その前に取り組むべきこと」として情報共有を挙げる。

感染症法に則った協力要請は必要

――8月23日に、田村憲久厚生労働大臣と小池百合子東京都知事が連名で、改正感染症法16条の2に基づいて、都内の医療機関を対象にコロナ患者を最大限受け入れることを要請すると表明しました。勧告や病院名公表も視野に入れた内容で、マスコミでも話題になりました。

厚生労働省としては、データを見たうえで、本来はもっと活用できる病床を有しているにもかかわらず活用できていない状況があると考えたのでしょう。病院が持っている機能から考えれば、もう少し協力してもらえるのではないかというわけです。

実際、これは東京都の話ではありませんが、ある地域では、大学病院の間にも新型コロナ患者への対応に差があるという話を耳にしています。ある大学病院が移植手術を止めてまでコロナ対応に力を尽くしている一方で、別の大学病院は数人レベルの感染患者しか受け入れていないと……。また別の地域の大学病院のトップが「通常医療も大事だから」と、自院は感染患者の受け入れを控えたいと政府に談判したそうです。今回の厚労省の対応は、こうしたことへの危機意識が背景にあるのではないでしょうか。

感染症法上、「病床確保を強制はできないけれど要請はできる」となっていますから、そのこと自体は行政が取り組むべきこととして、特段、違和感は覚えません。もちろん、すでに病床をフル回転して対応している病院もあるようですから、そういった病院が対象ではないことも丁寧に説明していく必要はあるかもしれませんけれど。

――自宅療養を強いられる患者も急増していますが、対応が後手に回っているようです。

これも病院と同様、地域によって対応に差があります。ある市では、地区医師会のなかで開業医の先生方が分担してこまめに自宅療養患者の様子を把握し、別の市では、地区医師会がほとんど対策に参加していないといいます。地方によっては、そもそも、自宅療養せざるを得ない感染患者自体がいないところもありますから、そうしたところは、無理に地区医師会が動く必要はないでしょう。
ただ、本当に地域で自宅療養患者が急増して困っているにもかかわらず、医師会の協力がなかなか得られないというのであれば、病院と同様、地域名を公表して協力を求めることも検討していいのではないでしょうか。

協力を要請するならまず情報共有から

――医療機関も「必要な協力は惜しむべきではない」ということでしょうか。

ただし、強調しておきたいことが一つあります。それは、協力を要請する際の根拠となるデータは皆で共有するということ。個人情報がかかわってくる可能性もありますから、すべての情報をフルオープンにしろとは言いませんが、せめて、自分たちの地域の医療体制がどういう状況になっているのかは、医療機関の間で共有すべきです。

たとえば、相澤病院が所在する長野県松本市一帯では、地域ごとに確保している病床数、現在の稼働状況、退院予定数が毎日更新され回ってきます。加えて、一人ひとりの患者さんについても入院している病棟の機能、治療内容、酸素投与量、酸素飽和度、投与している薬なども一覧表になっています。
ここまで状況が克明に把握できれば、「現在はかなり大変だから、当院はもう少し空床を確保して感染患者の受け入れに協力しよう」と考えられます。実際、当院は重症用病床3床、中等症用病床15床を確保していますが、一時期、感染が落ち着いたころは15床を返上しました。ところが、再び入院患者が増えたので再開したという経緯があります。データがあれば、こうした柔軟な対応も可能になります。状況を認識できれば、多くの病院はプロフェッショナルオートノミーを働かせるはず。逆に、何の情報もないなかでは、自院がどう貢献するか、判断のしようがありません。

見方を変えれば、コロナ禍によって病院の協力体制、在宅医療体制、そして情報の適切な公開と共有など、これまで医療政策が後回しにしてきた課題が一気に噴出したとも言えます。現在進行している事態の解決にはなりにくいかもしれませんが、せめてこれを教訓にして、改善に向けて取り組むべきです。その際は「喉元すぎれば熱さを忘れる」とならぬよう、マスコミも注視する必要があるでしょう。

――ありがとうございました。(『最新医療経営PHASE3』2021年10月号)

相澤孝夫
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。

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