MMS Woman Lab
Vol.91
ご意見箱への投書に対する回答で
病院の姿勢をしっかり見せよう

<今月のお悩み>当院では患者さんからの声を寄せていただく「ご意見箱」を設置しており、ご意見への回答を院内の掲示板に掲載するのは総務課の仕事です。先日「トイレの荷物掛けのフックが使いづらい」とのこ意見をいただき、検討の結果、フックの位置を変更しました。掲示板には「トイレの荷物掛けのフックが使いにくいとのこ意見をいただき、位置を調整しました。ご意見ありがとうございました」という文章を掲載したのですが、言われたから直したという感じがして、違和感を持っています。

ご意見箱への投書に対する適切な回答の仕方とは?

「業務改善」と言うとQCサークル活動が思い浮かぶと思いますが、職場環境や顧客サービス、業務効率や品質向上の取り組みにはさまざまなチャネルがあります。いかに「問題」を洗い出すかが重要で、多角的な視点が不可欠です。そのため、病院を利用する患者の視点からの情報収集の手段として「ご意見箱」などが設置されています。
もちろん「ご意見」ですから、職員への感謝など温かいお声をいただくこともありますし、気になった点や不自由を感じた点などのご意見をいただくこともあります。その患者視点からの「気づき」が改善のきっかけになっていきます。

こうした「ご意見」に対する病院としての対応は、QC委員会などで検討して改善策を実行していくことが多いと思いますが、内容によっては病院全体の改善活動になる場合もあるでしょう。ご意見への「回答」を院内の掲示板に掲載する「作業」は総務課で行っているとのことですが、担当者としその表現に違和感があるということですね。

事例にあった、「トイレの荷物掛けのフックが使いにくいとのご意見をいただき、位置を調整しました。ご意見ありがとうございました」との回答ですが、一見すると即座に対応した感じはありますが、「言われたので直しました」というちょっと消極的な印象があります。
ご意見への回答によくあるのが「~というご意見を多くいただいたので、今後~とさせていただきます」や「~というご指摘がありましたので、~に関する指導を徹底します」などの表現ですが、どれも同じような違和感があります。ご相談者が感じているとおり、どれも「言われたので直しました、ごめんなさい」というニュアンスの表現になっていて、病院として主体的に取り組んだ感じがしないのです。

対応したことの報告だけでなく業務改善のストーリーを伝える

本来はどの取り組みも、会議体や委員会を通して「病院として判断」して実行していることと思います。患者さんからの「ご意見」で課題に気づき、会議体や委員会で検討し、「見直すべき問題である」と判断してより良い方法を考えて実施した結果を報告しているはずです。
そして、「改善のきっかけを与えてくれてありがとう」という気持ちを込めて、「ご意見ありがとうございました」と回答を締めくくっています。

先ほどの例で言うと、トイレの内扉の荷物掛けのフックが使いにくい位置にあるとご意見をいただき、職員で検証して、確かにこれでは使いにくいし、身長が低い方や腕を骨折している方などは荷物をかけられないことに気づき「問題だ」と認識した。そして、患者さんの動き方や荷物の置き方の別の方法も考え、壁側の低めの位置にもフックを設置し、さらに書類などを手に持っていることも考えて棚も用意するという改善を行った。これによって、病院を利用する多くの方々の利便性が向上した、というのが結果です。
たくさんのご意見が寄せられ、それに対する回答も簡潔にまとめる必要があるのかもしれませんが、この気づきから見直しまでの「業務改善のストーリー」が見えるような表現を心がけてみてはいかがでしょう。そうすれば病院としての主体性が見えてきますし、「ご意見ありがとうございました」の深い意味もちゃんと伝わると思います。
投書していただいた方にとっても、単に「対応しました」というだけでなく、自分の意見を病院かしっかりと受け止めて改善につなげてくれたというストーリーがわかるほうが「意見を出したかいがあった」と感じますし、病院に対する信頼感の向上にもつながります。

ご意見への回答は、苦言へのお詫びや要望への個別対応ではありません。もちろん、不快な思いをさせてしまうことがあったとすれば、その思いへの配慮やお詫びは必要ですが、もっと大事なのは、その要因の分析と他の方に同じ思いをさせない工夫と職員への教育です。そういった視点でご意見への対応をしていくと前向きに取り組めるのではないでしょうか。

〈石井先生の回答〉

在来線でソフトクリームを食べている子どもがいて、周囲の視線を感じた母親が「おばちゃんが睨んでいるから早く食べなさい」と急かしている場面に遭遇しました。これは場所をわきまえずに食べさせている母親の判断ミス。「言われたから直す」のではなく、判断して改善していきたいものです。(『月刊医療経営士』2022年2月号)

石井富美(多摩大学医療・介護ソリューション研究所副所長)
いしい・ふみ●医療情報技師、医療メディエーター。民間企業でソフトウエア開発のSEとして勤務した後、社会福祉法人に入職。情報システム室などを経て経営企画室長に 就任後は新規事業の企画、人材育成などに携わった。現在は医療経営人材育成活動、企業向け医療ビジネスセミナーなどを行うとともに、関西学院大学院、多摩大学院にて「地域医療経営」の講座を担当している。著書に『2018年度同時改定からはじまる医療・介護制度改革へ向けた病院経営戦略』『経営企画部門のマネジメント』(ともに日本医療企画)ほか

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