リーダーの肖像 学び続けるモチベーションの高い職員を育成 しなやかに変化できる組織を目指す

リーダーの肖像 学び続けるモチベーションの高い職員を育成 しなやかに変化できる組織を目指す

今月のリーダー:医療法人真鶴会小倉第一病院 理事長・院長 中村秀敏(なかむら・ひでとし )
1972年の開院から「透析患者の完全社会復帰」のため先進的に取り組んできた小倉第一病院。その2代目理事長に就任し、学び続けるモチベーションの高い組織づくりに注力してきた。変化する課題や需要をスピーディーにキャッチし、主体的な職員と共に変化し続けている。

入職後すぐに採用の難しさを経験
採用・育成・定着を経営の軸に

小倉第一病院は、1972年に父・中村定敏が「透析患者の完全社会復帰」を理念に設立。開業当初から、当時珍しかった夜間透析を行い、治療と仕事や社会生活の両立を支援してきた。現理事長の中村秀敏は、2004年の法人設立と同時に副院長として入職。トップダウンでアグレッシブに職員をけん引する父に対して性格や考え方との違いを感じ、しばらくはぶつかることも多かったという。

中村は「家族でありながら衝突することに思い悩んでいたときに、さまざまな業種の2代目経営者について書かれた本を読んだ。名だたる大企業でも、自分と同じ2代目後継者が葛藤を抱えて乗り越えてきたことを知り、肩の力を抜いて自分なりの経営者像を描いてやっていく覚悟ができた」と振り返る。父とは対照的に、職員との距離を近くし現場の意見を積極的に取り入れ、主体的な職員とともに変化し発展する組織づくりを目指し始めた。

最も力を入れているのは、「採用」「育成」「定着」の好循環を回すことだ。きっかけは入職当初に経験した、看護師の採用難だった。04年の入職から間もなく、看護師採用を任されたが、06年に開始する入院基本料のあおりを受けて、2年連続で応募者数は1人にとどまった。北九州市小倉医師会会長や医師会立看護学校の校長を兼任していた父・定敏と違い、中村は地元に戻ったばかり。「同じようにやっていては人は集められない」と痛感し、自ら看護学校の挨拶まわりを始めた。これを機に人が集まり定着する病院づくりに取り組み始めた。
新入職員研修にも注力し、研修期間は多彩な外部講師を招くなど内容を充実させている。研修では中村自らが同院の歴史を語り、新入職員たちと同院の理念や使命の共有を図る。

「育成」については、「学び続ける」ことも重要視。勤務医時代に見ていた大学病院の看護師と、民間病院である自院の看護師のモチベーションの違いに危機感を抱いたためだ。eラーニングを使用し社内の研修を充実させたほか、学会発表や専門資格取得にはインセンティブをつけている。学び〝続ける〟ことを重視しているため、学会発表を途切れさせず定期的に行うことでインセンティブも継続する仕組みにしている。
またこの制度は、子育て支援とのバランスにも役立っていると中村は言う。
子育て支援は病院経営に不可欠だが、一般的に、独身や子どもがいない職員にとっては不公平感や不満につながりやすい。同院では、子育て中の職員を手厚く支援する一方で、学会発表や専門資格取得を大きく評価するため、さまざまな立場の職員がモチベーションを高く維持できているのだ。

中村は「採用、育成、定着はすべて揃ってこそうまく回る。成長意欲のある職員は離職も少ないので、育成に力を入れることは定着にもつながる。優秀な人材に長く働いてもらえるよう、育成と福利厚生には予算もしっかりととって注力している」と話す。

現場の意見を積極的に吸い上げ
柔軟に素早く変化できる組織を目指す

もう一つ注力しているのが、「しなやかに変化を続ける組織づくり」だ。
同院の職員数は150人と小規模であり、スピード感をもって変化していけることが強みだと中村は考える。ニーズの変化や自院の課題を素早くキャッチするため、現場の声が入りやすい体制を構築。さらに、病院の意思決定をトップダウン方式から経営幹部と現場の合議制に変更した。中村も職員との食事会を開いたり、夜勤職員とともに夜食をとったりと、話しやすい関係性をつくり、積極的に現場の意見を吸い上げている。雑談のなかでも良い意見や気になる課題があれば、すぐに改善・改良を行う。職員も意見が反映されやすいため、積極的に改善点を提案する流れが生まれている。

変化の一例が、患者の高齢化への対応だ。同院は透析患者が治療と仕事を両立し、完全社会復帰することを目指した取り組みを展開してきた。しかし近年は、患者が高齢化し退職者も増え、社会復帰の支援よりも高齢化に伴う疾患以外の部分への対応が求められるようになった。

たとえば、09年からは「フットケア委員会」を立ち上げている。透析患者は末梢の血流が悪く、足先の症状が悪化し歩けなくなることも多いため、自分で歩き続けるためには足先のケアが重要だからだ。しかし患者の高齢化にともない、体全体のケアやリハビリも重要となってきた。そこで同院では、理学療法士と作業療法士を雇用しリハビリテーション部門を充実させた。また栄養部門でも、糖質やタンパク質の制限だけでなく、筋力低下やフレイルなど、体全体を見て指導できる管理栄養士を育成している。これらの専門職が職種を超えて連携し、疾患にとどまらず、患者の抱える問題を解決するため取り組んでいる。

中村は「21年秋に病院の新築移転を予定しており、そこでは1フロアをすべてサービス付き高齢者向け住宅にする。立体駐車場を併設し、透析室のある2階から直接病院へ入れるようにするなど、高齢化対策を念頭においた設計にした。また、職員が働きやすい動線づくりにも注力している。新病院開院をきっかけに、より多くの若くて優秀な人材に集まってほしい。また、高齢化の次を見据えて、新しい患者の獲得も重要だ。今後も職員とともに従来の考え方に凝り固まらず、しなやかに変化していける組織であり続けたい」と展望を語る。
(本文、敬称略/月刊医療経営士 2020年7月号)

理念と経営哲学

▼学習し続けることを追求する
学会発表・専門資格取得など、学び続けることを高く評価し、モチベーションが高い主体的な職員を育成。

▼スピーディーに、しなやかに変化し続ける
現場の意見を吸い上げやすい環境をつくることで、需要や課題を素早く把握し改善・解決する

座右の銘

「七転び八起き」
病院経営においても何度も危機を経験したが、何回転んでも起き上がることをポリシーにして乗り越えてきた。

趣味

マラソン
普段は日曜日に走っているが、出張先でのランも楽しんでいる。レースに出るためにさまざまな土地を訪れるのも楽しみのひとつ。

若手医療経営士へのアドバイス

データを分析して、経営に活かすことが重要だが、経営戦略を立てたりプレゼンテーションをする際には、一般企業のやり方を学ぶことも参考になる。戦略的な経営については病院よりも一般企業の方がはるかに進んでいる。ぜひ視野を広げて学んでみてほしい。

トップとしてのおもな歩み
2004年 小倉第一病院副院長に就任
医療法人真鶴会設立と同時に副院長として入職
2011年 小倉第一病院副理事長・院長に就任
2013年 小倉第一病院理事長・院長に就任