DATAで読み解く今後の方向性 地域医療・介護向上委員会【特別編】
特定健診データから見る
外来診療の質と地域差

今回は、特定健診を取り上げることで、簡易な方法ではあるものの、外来診療の質とその地域差に迫っていく。

特定健診については、各実施項目の結果が年齢階級別の値別に公開されている。本稿では、肥満の指標であるBMI(Body Mass Index)とメタボリックシンドロームの診断基準とされている腹囲の地域差を取り上げる。
BMIは、身長に見合った体重かを判定する目安で、日本のBMIの理想は22.0とされている。この数値に近いほど、統計的に病気にかかりにくい体型といわれている。また、BMI18.5未満がやせ気味、25.0以上は肥満とされている。

BMIの地域差

特定健診のBMI(男性)の状況には、どのような地域差があるのだろうか。

図1は、都道府県ごとのBMIの分布および肥満に分類される25.0以上の割合(男性)を示したものである。25.0以上の割合は全国で34.2%となっており、最大(沖縄県:46.4%)と最小(島根県:30.2%)の比は1.5と、相応の地域差があることがわかる。

図2は、同様に女性の分布を示したものである。肥満に分類されるBMIが20以上の割合は、全国で19.9%となっており、最大(沖縄県:30.8%)と最小(京都府:16.8%)の比は1.8と、相応の地域差がある。BMIは25.0を超えると、糖尿病、高血圧等の生活習慣病にかかりやすいとされる。かかりつけ患者のBMIや生活習慣の状況を見直してみることが有効だろう。

腹囲の地域差

腹囲は、腹部の脂肪量を簡易的に評価することができる検査である。
近年、内臓脂肪の過剰な蓄積が、生活習慣病と密接にかかわっていることがわかってきた。腹囲が基準値以上(男性:85.0cm以上、女性:90.0cm以上)の方で、「血圧・血糖値・中性脂肪」の3つの項目のうち2項目以上が基準値を超えた場合は、メタボリックシンドロームに該当する。メタボリックシンドロームは、複数の病気や異常が重なっている状態を表し、心筋梗塞や脳血管障害の原因となる動脈硬化を急速に進行させることがわかっている。

図3は、都道府県ごとの腹囲の分布および85.0cm以上の割合(男性)を示したものである。腹囲が85.0cm以上の割合は、全国で48.4%となっており、最大(沖縄県:58.1%)と最小(新潟県:43.5%)の比は1.3と、相応の地域差がある。

図4は、都道府県ごとの腹囲の分布および90.0cm以上の割合(女性)を示したものである。腹囲が90.0cm以上の割合は、全国で14.7%となっており、最大(沖縄県:21.9%)と最小(京都府:12.9%)の比は1.7と、相応の地域差がある。

外来の質向上へ向けて

2008年に始まった特定健診とメタボリックシンドロームと診断された方への保健指導の取り組みは、その効果検証においてさまざまな限界があった。そのようななかで、20年に京都大学の福間先生たちが「JAMA Internal Medicine」に発表した論文は、話題となった。

論文では、就労世代男性7.5万人の大規模な健診データを用いた効果検証を行い、メタボと判断され「保健指導の対象となること」により0.4%と軽度の肥満改善を認め、「実際に保健指導を受けたこと」によって、2%の肥満改善を認めた。血圧・血糖・脂質などの健康指標に関しては、「保健指導の対象となった」場合および「実際に保健指導を受けた」場合の両者において、改善を認めなかったとしている。保健指導は肥満の軽度改善にはつながったものの、血圧・血糖・脂質の改善は認めず、必要に応じて制度を改善する必要があると結論付けている。

これまで7回にわたって、NDBオープンデータを用いて、外来診療の質とその地域差に迫ってきた。都道府県レベルでの分析であり、荒いものではあるものの、項目によっては、数倍の格差がみられたのは驚きではなかっただろうか。このような格差を認識し、必要に応じて解消していくことが、日本の外来診療の質向上に資するのではないだろうか。(『CLINIC ばんぶう』2021年10月号)

石川雅俊
筑波大学医学医療系客員准教授
いしかわ・まさとし●2005年、筑波大学医学専門学群、初期臨床研修を経て08年、KPMGヘルスケアジャパンに参画。12年、同社マネージャー。14年4月より国際医療福祉大学准教授、16年4月から18年3月まで厚生労働省勤務

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