食べることの希望をつなごう
第41回
在宅患者の適切な栄養管理を左右する
施設間における情報共有の精度

栄養情報提供加算では、提供する側と受け取り側のそれぞれ一方の立場から情報を扱うため、その情報を提供先でどう活用するのかまで知る機会はなかなかありません。今回、情報を提供する側と受け取り側の両方を経験したので、感じたことをお伝えします。

栄養情報提供加算をする側・される側から考える

令和2年度診療報酬改定で新設された栄養情報提供加算は、退院後の栄養食事管理について栄養指導を行うとともに、入院中の栄養管理に関する情報を、文書を用いて患者に説明し、これをほかの保険医療機関、介護老人保健施設等の医師または管理栄養士と共有した場合に加算されます。入院中の栄養管理に関する情報内容としては、「必要栄養量、摂取栄養量、食事形態(嚥下食コードを含む)、禁止食品、栄養管理に係る経過等」が挙げられています。当院は急性期病院であり、情報を提供する側の医療機関です。しかし今回、訪問診療に同行するにあたり、栄養管理情報を受け取る側となり、情報提供する側、受ける側、両方について考えるいい機会となりました。

病棟での栄養管理業務において、必要栄養量は身長、体重、年齢、性別に加え、既往歴や治療内容を考慮し、適宜他職種とも検討しています。Harris Benedictの式と体重からの簡易式から必要栄養量を算出しますが、経過とともに再評価し、調整します。必要栄養量を提供していて、全量摂取できていても体重減少がある場合は、提供量の不足を考え、食事量以外の体重減少の原因を排除したうえで提供栄養量を増加します。逆に、必要栄養量を摂取できていなくても、採血データや体重、体調などに問題がなければ、経過観察とする場合もあります。糖尿病や腎臓疾患など、特別治療食が必要な場合は適宜内科医に連絡し、指示栄養量を確認します。

一方で難渋するのが、必要栄養量を摂取できず、体重減少や低栄養に陥る場合です。口腔がんの術後は、口唇閉鎖がうまくできずに口からこぼれる量が多く、実際に胃に収まる量が少なかったり、一口食べるのに何度も嚥下が必要だったり、安全に食べられる姿勢や食具の指定があるためにとても時間がかかったりと、食事摂取量が減ってしまう要因がたくさんあります。経鼻胃管で栄養補助を行うこともありますが、経鼻胃管が飲み込みの邪魔をする場合もあり、可能であればできるだけ早く経口摂取のみに移行したいところです。そのため、栄養補助食品を使用することもあります。また、放射線治療では、口内炎がひどく食形態や食事内容の調整が必要になることがあります。酸味の強いものや熱いものが食べにくいなどの理由から、一時的に提供を中止している食品があっても、口腔内の状況が改善すれば食べられます。

たとえば、少量頻回食にしている患者さんがいるとします。時間がかかったり、疲労感が強かったりするため、1回の提供量が少なくなっている場合もあれば、逆流や嘔吐があるので1回量が増やせないという場合もあります。前者の場合は、無理のない範囲での増量は問題ないと考えられますが、後者の場合はリスクが高いと考えられます。退院時の食事内容に至るまでに、いろいろな試行錯誤や経緯が存在することが多々あることは、皆さんも経験されていることでしょう。

事例から適した栄養管理を読み解く

今回、受け取った栄養管理の情報には、患者さんの身長、体重、年齢、性別、一部の採血データ、病名などの基本情報のほかに、必要栄養量、摂取栄養量、食事形態や禁止食品など、加算要件となる項目について記載がありました。禁止食品については、アレルギーだけでなく嗜好の面についても記載があり、これはとてもありがたい情報だと感じました。同じ禁止食品でもアレルギー対応と嗜好とでは対応は違うので、大変助かります。また、患者さんは経口摂取しておらず、胃ろうからの栄養管理が行われており、使用している栄養剤の種類や投与回数、水分投与量についても記載がありました。今回、訪問する患者さんは、経口摂取の開始を目的として摂食嚥下リハビリテーションの介入をしているのですが、嘔吐をきっかけとする誤嚥性肺炎で入院歴が何度かあり、嘔吐および栄養剤の逆流を防ぐことができないかという依頼で栄養介入することになったケースです。

胃ろうからの栄養管理であるため、栄養剤の種類と量を確認したところ、低ナトリウム、低リン、低カリウムに調整された製品が使用されていました。診療情報提供書を確認すると、腎機能低下と記載があり、低カリウム血症でカリウム補充の内服薬が処方されています。身長、体重とBMIの記載があり、BMIは18kg/㎡と低体重でした。必要栄養量はHarris Benedictの式で計算された基礎エネルギー消費量で、投与栄養量は1200kcalです。

低体重で中等度の栄養不良と記載があるが、必要栄養量は少なくないか?リハビリ介入をするのに栄養量は不足しているのではないか?腎機能低下と記載があるけれど、低カリウム血症のためカリウムの処方もされているのか?
現在の栄養剤は非常に高価で患者さんの負担が大きそうだが、栄養剤の変更は可能か?など、たくさんの疑問点が出てきてしまい、主治医に問い合わせを行いました。その結果、「嘔吐や逆流があるため現状では投与量を増やすのが難しい」「現在、低カリウム血症は改善し処方もなく経過観察している」「腎機能低下のため、栄養剤の変更は望ましくない」という旨の回答をいただきました。

やはり、退院時の食事内容に至るにはいろいろな理由があったようです。今回の訪問診療での依頼事項は、嘔吐および逆流防止であったため、半固形化か、半固形栄養剤への変更、投与速度の減速、1回の投与量を減らし投与回数を増やすなどの方法を考えていましたが、半固形栄養剤への変更の選択肢は選べないことになります。また、半固形化するにはゲル化剤のコストや手間、衛生管理などが気になります。投与速度を減速すると拘束時間が長くなります。投与回数を増やすと介護者の手間が増えます。メリットとデメリットを説明し、どの方法が一番患者さんの生活にしっくりくるのか相談していきたいと思います。

在宅では患者を第一とした選択を

病院での入院生活をそのまま在宅へ移行するのではなく、退院後はあくまでも患者さんの生活を中心としたサポートをする必要があります。また、転院先ではリハビリが行われることもあるでしょう。管理栄養士の職域によってそれぞれの特性があります。当たり前のことではあるのですが、栄養情報の提供を行う先のことを理解することで、よりよい連携につなげられると痛感した事例でした。今回、訪問診療に同行するにあたり、日本在宅栄養管理学会監修の『訪問栄養食事指導実テキストブック』(メディア・ケアプラス)が大変参考になりました。在宅訪問栄養食事指導を考えている方にはお勧めです。(『ヘルスケア・レストラン』2021年8月号)

豊島瑞枝(東京医科歯科大学歯学部附属病院 管理栄養士)
とよしま・みずえ●大妻女子大学卒業。東京医科歯科大学医学部附属病院に入職後、2010年より東京医科歯科大学歯学部附属病院勤務となる。摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士、NST専門療法士、TNT-D管理栄養士、糖尿病療養指導士

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