栄養士が知っておくべき薬の知識
第112回
栄養治療も重要となる
クローン病の薬物治療について

前回は潰瘍性大腸炎の薬物治療について述べました。今回は同じ炎症性腸疾患に位置づけられるクローン病の治療について述べます。

クローン病について

潰瘍性大腸炎と同様にクローン病も国の難病指定を受けています。いまだに原因は不明ですが、遺伝性の因子とともに腸管の免疫異常も重要な要因とされています。クローン病の好発年齢は10~20代に多く、男性は女性の約2倍に上り、潰瘍性大腸炎同様、患者数の増加がみられる疾患です。生命予後は長いとされる疾患です。多くは小腸や大腸に縦走潰瘍、潰瘍が飛び石のようにできてしまう敷石像などの病変を呈します。潰瘍性大腸炎は炎症が大腸に限局していますが、クローン病は口から肛門までの消化管すべての部位に起こる可能性があります。潰瘍性大腸炎の患者に比べ腹痛、下痢、体重減少、低アルブミン血症、低コレステロール血症など、小腸にも病変を起こすためか、栄養障害が起こりやすい傾向があります。

原因は解明されていませんが、脂肪摂取やお菓子、甘味料摂取などとの関連性が指摘されています。また後述する栄養療法の効果がみられることからも、食事成分が何らかの影響を及ぼしていると考えられています。腸管細菌叢もその1つです。マウスの実験で腸管を無菌にすると腸炎を発症せず、腸内に細菌があると炎症を生じることから、腸内細菌叢が何らかの影響を及ぼしていると考えられています。ただしどの微生物によるか、などはわかっていません。

クローン病の症状は下痢と腹痛ですが、時には腸閉塞や腸穿孔といった重篤な症状を起こし、腸管外合併症も貧血や末梢関節炎、口腔内アフタや皮膚症状など多彩な症状を生じます。回盲部に病変がある場合はビタミンB12の吸収低下による貧血にも注意が必要です。腸管狭窄やろう孔、膿瘍などが生じた時には手術も必要になります。

クローン病の診断

クローン病の診断は、前述した症状をみた時に細菌性や寄生虫などによる腸炎を否定したのち、小腸、大腸内視鏡検査やX線造影、CTやMRIで縦走潰瘍や敷石像、肉下腫などの所見によって診断されます。特に潰瘍性大腸炎との鑑別は、両者の治療方針が異なるため重要になります。診断後は疾患活動性や病変の範囲、重症度の評価を行います。重症度はその後の治療方針に大きく影響します。ろう孔や狭窄などの病変があるか、炎症反応(CRP)の上昇や腸閉塞などの合併症有無、治療の反応性などから決定します。疾患活動性は腹痛の有無、1日の下痢や粘血便の回数、肛門部病変やろう孔の有無のほか、その他の合併症や腹部腫瘤、体重減少や発熱、疼痛や貧血などから合算して評価を行います。

クローン病の薬物治療

クローン病は抗炎症剤や何らかの原因によって免疫反応が異常に亢進し正常な細胞を傷つけているため、免疫を抑える治療として副腎皮質ステロイド剤や免疫抑制剤を用います。腹痛を伴うことから解熱鎮痛剤であるロキソプロフェンなどのNSAIDsを使いたくなりますが、NSAIDsは粘膜障害を生じるため、軽症例を除いてNSAIDsを使うことは推奨できません。鎮痛薬や解熱薬が必要な場合は粘膜障害作用の少ないアセトアミノフェンで代用します。

軽症~中等症の薬物療法としては、抗炎症剤である5-ASA製剤であるサラゾスルファピリジンやメサラジン(ペンタサ®)、ブデソニド腸溶性顆粒充填カプセル(ゼンタコート®)が使われます。ブデソニドは副腎皮質ステロイド剤で強力な抗炎症作用を発揮します。小腸から結腸で薬が溶け出すように設計された徐放性製剤で、効果を示す部位は限局されますが、吸収後は速やかに肝臓で代謝を受けて大半が作用のない形に変化するため、全身性の副作用が少ない副腎皮質ステロイド剤です。

軽症から中等症では栄養療法も併用されます。経腸栄養剤ではアミノ酸そのものが原料となるエレンタール®や、アミノ酸が2つあるいは3つが結合したツインライン®などの成分栄養剤、消化態栄養剤が第一選択となります。以前はこの2つを中心に用いましたが、アミノ酸そのもので味が悪いため、患者さんの受容性が低ければ半消化態栄養剤を用いてもよいとされます。これには人種差があるようで、日本人は成分栄養剤や消化態栄養剤の受容性は高く、欧米人はなかなか受容できないことにも原因があるようです。

中等症~重症と判断されると経口ステロイド剤は全身作用もあるプレドニゾロンを用い、保険診療上の適応はありませんが、消化管内の細菌叢を正常化するためメトロニダゾールやニューキノロン系といった抗菌薬も用いられます。また、ステロイド剤を使うとさまざまな副作用を生じるため、アザチオプリンや6-メルカプトプリンといった免疫抑制剤も併用されます。最近では効果の高いインフリキシマブ(レミケード®)やアダリムマブ(ヒュミラ®)といった分子標的薬も使われます。これらはTNF-α(腫瘍壊死因子)という炎症反応を抑える薬ですが、近年ではその種類も増えて、インターロイキンの12や23番を抑えて抗炎症作用を発揮するウステキヌマブ(ステラーラ®)、免疫分子の接着を抑えるベドリズマブ(エンタイビオ®)といった分子標的薬も用いられています。

以前、これらの分子標的薬はほかの薬物治療で効果が乏しい場合に用いられましたが、最近では治療初期から分子標的薬が用いられることも多くなってきました。つまり、腸管の機能低下すなわち疾患活動性や病変範囲が広いなどと判断されれば、治療初期から分子標的薬や免疫抑制剤を併用して治療する方法も行われます。重症例では外科的な治療も検討されます。穿孔、大量出血、腸閉塞、がんの合併などは絶対的手術適応です。また難治性腸管狭窄、内ろう、外ろう、成長障害などの腸管外合併症、内科治療無効例、難治性肛門部病変も、内科的治療でコントロールが難しい場合は手術が考慮されます。

病勢の重症度に応じた治療方針を述べましたが、いったん、病気が終息したあとにも高率に再発するとされます。緩解期を迎えたあともそれを維持する治療が必要です。その際にも抗炎症薬や分子標的薬などを継続して使用し緩解期を維持させます。この時の栄養療法も重要です。食事成分によって病態が悪化しないよう、また栄養状態を保つために1日必要栄養量の半分に経腸栄養剤を取り入れるなど、食事指導が大切になります。

おわりに

どういった食事が病態を悪化させるかなどはなかなか判別しにくいと思いますが、最近では前回の記事でも述べたように便中のカルロプラスミンを測定するなど、腸管の炎症を鋭敏に反応する検査も用いられるようになっています。
また、過敏性腸症候群など、ストレスで悪化するといわれている疾患もあります。クローン病もストレスによって悪化することが明らかになりつつあります。患者さんは若年者が多く大学受験を控えている、といった場合もあり、ストレスのかからない生活といっても難しい面もありますが、できるだけストレスを抱え込まないよう十分に睡眠をとるなど、家族を含め医療スタッフの声掛けなども求められる疾患だと思います。(『ヘルスケア・レストラン』2020年12月号)

林 宏行(日本大学薬学部薬物治療学研究室教授)
はやし・ひろゆき●1985年、日本大学理工学部薬学科卒業。88年、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院勤務。2002年から同院NST事務局を務める。11年4月から日本大学薬学部薬物治療学研究室教授

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